私はなんて愚かなんだろう。あいつは最初から私に教えようとしてくれてた。どうして気づかなかったんだろう。なんて、今更謝ってもなんの償いにもならないか。今どこにいるんだろう。会いたいよ。
そう考えてからの朱里の行動は驚くほど早かった。父と母、そしてあいつへの手紙を書き、2枚は机へ、もう1枚はポケットに入れて家を飛び出す。ひたすら走った。走り続けた。心細い。辛い。疲れた。そんな負の感情全てを忘れてしまうほど、彼女の中で彼の存在は大きくなっていた。会いたい会いたい。
時は過ぎ、夜がくる。とても寒かった。吹雪の中で彼女は走り続ける。街ゆく人々の視線など気にせず、ただ1人に向かって我武者羅に走り続けた。狭い路地を通り過ぎようとした時、何かに引っかかり思わず転ける。そのまま彼女の記憶は途切れた。
次に目を開けた時には彼女の体は動かなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!