えっ……
なんで。どうして。この人殺しは私を助けたの?どう考えてもおかしい。人殺しが自殺を止めるなんて矛盾しすぎている。
「朱里さん?どうして泣いているんですか?怪我でもされましたか?」
涙が出ている。いつもと違って今日は自覚していた。が、理由がわからない。私がこんな人殺しに同情している?そんなわけない。悲しんでいる?そんなわけない……とは言い難い。けど、そんなわけない!
頭上から降る雪の冷たさに気づき、寒いと感じ、目を開けた朱里に飛び込んできたのは地獄のような画だった。あの男はもう居ない。
彼がいたことを証明するのは、降り積もった雪にある赤い斑点のみだった。
その夜、朱里はドアを開ける。
外に出ても凛は帰ってこなかった。
彼女は暗い夜道を1人で歩き出す。
降り積もった雪を一歩一歩踏みしめて歩き続ける。
あとに残ったのは、彼女の足跡と、青い雫に濡れた氷のつぶのみだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!