第16話

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2018/05/02 15:03
天沢 琴葉 アマサワコトハ
謝ろうって何度も思った。でもまさか怜のお母さんが死んじゃうなんて…事が大きくなるにつれてどんどん言いにくくなって…
驚きも、悲しみも、怒りも、何の感情も湧き上がらない。
水瀬 怜 ミナセレイ
そっか。
そう答えた私に驚いた表情で顔をあげた琴葉だったがすぐに俯く。
天沢 琴葉 アマサワコトハ
ずっと怜と一緒にいて、怜のお母さんの死を背負っていくのが私のせめてもの償いだと思ってた。ここに来てあの日のことを忘れなければいいって思ってた。でも…違った。怜が望むのはそんなことじゃないって分かってたのかもしれない。あの日、怜にお母さんは本当に事故で死んだのかな?って言われたとき、私焦ってた。もしかしたら怜が私のことを探ってるんじゃないかと思って。最低だよね。そんなわけないのに。償わなきゃならないのに怜にバレるかもってことばっかりに気が向いて、1人でビクビクしてた。
そこまで一気に話した琴葉を見て、それからもう1度桜の木を見る。4月の桜は満開だった。手に持っている写真の桜と同じ桜の木。今はきちんと鮮やかな薄桃色が目に映る。そこで思い出した。
水瀬 怜 ミナセレイ
私が幼稚園くらいのとき…お母さんとお父さんとここにお花見に来たんだ。仕事で忙しかったから遠くは無理だけどここならって。その時お母さんが言ってた。ここの桜は薄桃色だけど日本にはもっとたくさんの桜があるって。
あの日の母の顔を思い出しながら私はいつのまにか昔のことを話し始めていた。

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