第3話

二人で奏でるおといろ
205
2021/04/01 08:04

ホームでの生活にも慣れてきた頃、私は彼の部屋をノックした。


崎津 大和
崎津 大和
はい
音峰 紗妃
音峰 紗妃
紗妃です
崎津 大和
崎津 大和
何の用?

私たちはドア越しに会話を続ける。

音峰 紗妃
音峰 紗妃
二人で演奏できない?

私がそう言うと、彼の部屋から騒がしく物音がした。何が起きたのか……と戸惑っていると、ドアが開いた。
崎津 大和
崎津 大和
入って

初めて見る大和の部屋は殺風景だった。

机に、ベッド。そして、ギターやクラリネットなどの楽器のみ。

ただの推測だが、さっきの物音は押し入れの中に物を詰め込んだのではないかと考える。

音峰 紗妃
音峰 紗妃
私ね、吹奏楽やってて、ホルンしてたの
崎津 大和
崎津 大和
で、二人で演奏したいと?
音峰 紗妃
音峰 紗妃
うん

私がそう言うと、彼はクラリネットを手に取った。そのまま、分厚いファイルに挟まれた紙を手早くめくる。


大和はこれだけもの曲を吹いてきたのか。
崎津 大和
崎津 大和
これ、吹けそうか?
音峰 紗妃
音峰 紗妃
な、なんとか


そうして、私たちはホルンとクラリネットの二重奏を奏でた。

大和と私が心を通わせるのは、音楽を奏でている時だけ、おといろを染めあげる時だけ。



何の面白みもないこの生活の一筋の希望。

それは、彼とのセッションだけだった。

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