ホームでの生活にも慣れてきた頃、私は彼の部屋をノックした。
私たちはドア越しに会話を続ける。
私がそう言うと、彼の部屋から騒がしく物音がした。何が起きたのか……と戸惑っていると、ドアが開いた。
初めて見る大和の部屋は殺風景だった。
机に、ベッド。そして、ギターやクラリネットなどの楽器のみ。
ただの推測だが、さっきの物音は押し入れの中に物を詰め込んだのではないかと考える。
私がそう言うと、彼はクラリネットを手に取った。そのまま、分厚いファイルに挟まれた紙を手早くめくる。
大和はこれだけもの曲を吹いてきたのか。
そうして、私たちはホルンとクラリネットの二重奏を奏でた。
大和と私が心を通わせるのは、音楽を奏でている時だけ、おといろを染めあげる時だけ。
何の面白みもないこの生活の一筋の希望。
それは、彼とのセッションだけだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。