自宅の書斎で残っていた仕事を終わらせたカグツチはキッチンに行き、年代物のワインのコルクを抜いた。
ワインをグラスに注ぐと、カグツチは踵を返し、書斎へと戻った。
書斎へと戻ったカグツチはワイングラスを机に置き、スマホを片手に、椅子に深く腰をかけた。
ホームボタンを押し、ホーム画面を表示すると、カグツチはウェブブラウザを立ち上げた。
履歴から
『https://kaguchi .jp/』
のページを開くと、カグツチは不適な笑みを浮かべた。
スマホのディスプレイには燃え盛る紅い炎の背景にポップアップが表示されていた。
『●●●●●●●●●』
自分専用のパスワードを入力すると、ディスプレイは先程までの紅い炎から碧い海底に切り替わった。
カグツチの手の上に置かれたスマホのディスプレイの中で、カグツチを囲むように5人の子がその場に跪いた。
「カカカカカ___」
カグツチは素早いフリック入力で、画面上に紅い文字を羅列していく。
それが始まりの合図だったかのように、5人の子は報告を始める。
黒い文字の報告が終わると、次は水色の文字が報告を始める。
水色の文字も報告を終えると、最後に緑色の文字が報告を始めた。
全員の報告を聞き終えると、カグツチは机に置かれたワイングラスを手に取り、舐めるようにワインを啜った。
カグツチは子にそう忠告すると、子からの返信は見ずにスマホの電源を切った。
スマホをズボンのポケットに入れると、カグツチはワイングラスに残ったワインを一気に飲み干した。
カグツチは危機感を覚えていた。
赤澤財閥のホテルで開催される宝石のお披露目会に合わせて、計画した籠城テロ。
その実行が間近に迫ったところで、聞いたこともない怪盗が財閥の代表者、赤澤勉の前に挑戦状を叩きつけたのだ。
怪盗の狙いはカグツチの予想通り赤澤財閥自慢の血の宝石。
狙いは全く別だが、その影響で警備が厳重になってしまうのはカグツチにとっていい迷惑であった。
だが関係者の人間を1人殺めてしまった今、このまま引き下がるわけにはいかない。
そんなカグツチの気持ちとは裏腹にスマホの着信音が響いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!