木刀を持った戦闘服の男が童顔の男からリモコンを乱暴に奪い取ると、
と指示を出した。
タケと呼ばれた男は一瞬戸惑いの表情を浮かべた後、不貞腐れた態度で返事をして階段を上っていった。
まずいことになった。圭介の予想が正しければ、今のリモコンが爆弾のスイッチだ。
そんなものを軽々と押されてしまっては、仮に警察が乗り込んできたとしても人質もろとも自爆されてしまう。
どうしたものか。何か助かる方法はないのか……。
圭介があれこれと思案を巡らせていると、今度は警棒を持った男がこちらに走り寄り
と木刀を持つ男に報告した。
警棒を持った男は兵隊のような返事をすると、こちらに向き直り指示を出し始めた。
男は太ももにつけられたホルスターに手を置くとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
圭介は何か漠然とした疑問を抱きつつ、とりあえず男達の言うことに従うことにした。
ふと窓の外を見ると、すでに海は夕日によってオレンジ色に染められていた。
どこまでも続く広い海に現実を忘れ見入る圭介を現実に引き戻したのは、半泣きで腕にしがみつく亜美だった。
大丈夫の根拠などどこにもなかった。ただ、こう言っておかなければ亜美だけでなく、自分の気も持たないような気がしたのだ。
圭介は亜美に優しく囁きかけると、70階に向かうみんなの背中を追った。
男たちは爆弾が効いていると思っているのか、遅れてくる圭介達を急かすようなことはしなかった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!