その問いかけに、ヒヤはキーボードを叩く手を止めた。
後ろを振り返ると、そこには両手にマグカップを持ったツツの姿があった。
そう言う彼の笑顔を見て、ヒヤはさっきまでの緊張を忘れ、顔を綻ばせた。
ヒヤはツツの左手からマグカップを受け取ると、コーヒーを舐めるようにすすった。
まろやかな舌触りに、上品な甘さを備えたこれは、まさに私が求める最高のコーヒーだった。
この私好みのコーヒーを淹れる事ができるのは、この世でたった1人、ツツだけだった。
それほどに、ヒヤはツツを愛し、ツツもまたヒヤを愛していた。
そんな2人の愛を表すかのようなこの甘酸っぱいコーヒーを再度口に運ぶと、ヒヤは机にマグカップをそっと置き、ツツに向かって両手を広げた。
ツツもマグカップを机に置き、同じように両手を広げる。
そのまま2人は間を詰めると、お互いに抱きしめ合った。
特に意味はないが、彼の体に自分の体を密着させる事で、何故だか安心した気持ちになれるのだ。
一頻り彼とのスキンシップを終えると、ヒヤは少し頬を紅潮させ、デスクに向き直った。
ツツがマグカップを片手に、ヒヤのパソコンのディスプレイを覗き込む。
ツツはコーヒーを一気に飲み干すと、マグカップをテーブルの上に置き、後ろのソファに深く腰をかけた。
笑ってそう言うと、ヒヤもマグカップを手に取り、残りのコーヒーを一気に飲み干した。
深夜だと言うこともあり、集中力が落ちかけていたところだったので、このコーヒーには随分と元気をもらえたような気がした。
ふと頭をよぎった3人について、ヒヤはツツに問いかけてみた。
とツツ。
ヒヤは多少の胸騒ぎを覚えながら、Enterキーを押した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。