第30話

第5章 生贄の檻 10
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2020/08/14 07:53
20時30分。神志山ホテル69階。

陽が完全に沈み、真っ暗になったホテルで1人、男は黙々と黒い箱と格闘していた。

口にはペンライトを咥えて、ドライバーで蓋を外し、カラフルに配置されたコードを淡々とナイフで切っていく。

こんなところ奴らに見られれば裏切り者として殺されてしまうだろうが、彼を助けるにはやむを得ないことだった。

別に彼に会ったことも話したこともないが、彼にはある種可能性を感じているのだ。
男
よし、これで最後だ。
男はテーブルの下に仕掛けられた箱を慎重に取り外すと、それをテーブルの上に置き、椅子に腰掛けた。

これまでと同じように蓋を取り、コードを切る。

黒い箱についていた2つのランプはどちらも消え、レストランを照らす光は咥えたペンライトと、夜空に浮かぶ月だけになってしまった。

黒い箱の処理を終えた男は道具を乱暴にズボンのポケットにしまい、反対のポケットからタバコ1本とライターを取り出した。

咥えていたペンライトを口から外し、テーブルの上に置くと、取り出したタバコに火をつけ、今度はそれを口に咥えた。

ちょうどその時胸ポケットに入ったスマホが着信音を鳴らした。

スマホを手に取りディスプレイを見ると、そこには男の嫌いな名前が表示されていた。

出たくはなかったが、出なければ変に疑われてしまう可能性がある。

男はテーブルに置いてあった灰皿でタバコの火を消すと、応答と書かれた緑のマークを押し、上手い言い訳を考えながらスマホを耳にあてた。
女
お前一体今どこにいるんだ?
電話の相手は女だった。女の声に動揺はなかったが、姿の見えなくなった男への多少の苛立ちを当の本人は感じとった。
男
お前には黙っていて悪かったが、俺は今ホテルの69階にいる。
女
まだホテル内にいたのか?なぜだ。今回の事件は  依頼人  クライアントの希望で作戦実行後は近づくなと言われていただろ?
男
あぁ、それは分かっている。ただ  依頼人  クライアントが獲物を狩り損ねる可能性も否定できなかったんで、一応ここで待機することにしたんだ。
女
待機するって言ったって、いずれはそこに警察が突入する可能性もあるんだぞ?そこから怪しまれずに逃げるなんて不可能だろ?
女の声はだんだんと荒々しくなってくる。
男
大丈夫だ。俺にはいい考えがある。必ず警察から逃げ切ってみせるさ。
男は女の返事を待たずに一方的に通話を終わらせると、椅子から立ち上がり月明かりが照らす広大な海を眺めた。

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