ダクトの中は思っていたよりも広く、圧迫感というようなものは一切感じなかった。
しかし、ダクトの中はホテルが新しいこともあってか、常にペンキのような異様な匂いが充満していた。
7001号室を出て、エレベーターの前の廊下を音を立てないよう細心の注意をはらって進んでいく。
途中3方向に分かれたダクトを右方向に曲がると、突き当たりに明かりが見えた。
恐らく7011号室の浴室の換気扇だ。圭介は慎重に換気扇を取り外し、それから換気扇のカバーを取り外すと、持ってきていたシーツの梯子を浴室へと垂らした。
梯子を伝い浴室の床に足をつけると、圭介は誰にも気づかれないようにゆっくりと浴室のドアノブに手をかけた。
ドアの向こうで勉の声がした。
圭介はドアから顔を出すと、口の前で人差し指を立てた。
圭介は3人を側へ近づけると、小声で今回の計画を伝えた。
計画を聞いた勉は圭介顔をまっすぐ見てそう言った。
美琴が笑顔で勉の肩をポンと叩いた。
表情こそ笑顔ではあったが、美琴の目にはかすかに涙が浮かんでいた。
勉は圭介の手を力強く握ると、その覚悟に満ちた目を圭介に向けた。
圭介は踵を返すと浴室へと歩みを進めた。
勉は圭介の後に梯子を使ってダクト内に入ると、圭介の後ろ姿を追った。
圭介はダクトを右方向に曲がると廊下の上に通じるダクトを静かに這い始めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。