いつも通りの朝、いつも通りの時間。
そしてやっぱりいつも通りの駅のホームで、友達である美羽が私を呼んだ。
私はどこにでもいる、平凡な高校1年生だ。
取り柄は、いつも元気なことくらい。
私はあくびをしながら、
と返した。
美羽の横には、静かにスマホを触る『すず』がいる。
工藤鈴葉だから、すず。
でも彼女自身はすずという程、凛とはしていなくて……
どちらかと言うといつも元気で明るいイメージ。
美羽とすずと私は、よく一緒にいるメンバーだ。
だから今日も問題なくいつも通りの顔ぶれで、私達は電車を待っていた。
そんなことを言って、美羽が私の頬をムニムニとつまむ。
美羽は女子力の塊のような子で、キャピキャピしている。
なんていうか、"The女子"って感じ。
私とは正反対だ。
美羽は女子高生らしく髪をクルクルに巻いたりしているけど、私は肩口までのボブ。
化粧っ気もないし、自分で自分が心配になったりならなかったり……。
昨日の夜の出来事を思い出して、ムッとする。
ホントうちの弟は、姉を敬う気は全くないからなぁー。
困ったもんだ。
おかげて姉は睡眠不足ですよ。
私と美羽がそんな会話をしている間も、すずは無言でスマホを触っている。
これもいつも通り。
会話に混ざりたい時に混ざる。
すずは気まぐれなのだ。
──トゥルルルル…………。
やがて電車が来て、3両目に私たちは乗り込んだ。
ガタンガタン、という不規則な音を立てる電車に揺られながら、高校のある市を目指す。
車内にはほどほどに人がいる。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれて満員という訳ではないけれど、空いている席やつかまれそうな高さのつり革はもう残っていなかったから、ドアの近くに3人で立った。
季節は秋。
少しずつ寒くなっていく、9月だ。
…………あー、やばい。 眠い。
眠気に負けないように必死に耐えていると、なんだかイライラしてきた。
全ては、弟のせいだ。
いつもなら、もっと元気よく美羽と、時々すずと楽しく話しながら登校してるのに。
そう。
いつも通りじゃなかったのは私がイライラしていたことくらいだった。
なんとなく視線をずらして、見えた先で。
痴漢に震えている女性を、見つけるまでは。
びっくりして、寝不足で落ちそうになっていた瞼を勢いよく開く。
中年太りしたおじさんが、か弱そうな女性のお尻を触っている。
女性は今にも泣きだしそうなほど震えて、俯いていた。
2人ともスマホに夢中で、気づいていない。
さて、どうしようかと考える。
私はこういう時、見て見ぬフリが出来ないタイプだ。
ともかく、痴漢を止めなければと思った瞬間、辺りがざわめいた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。