《テオくんside》
スカイハウスに入るなり
ソファに座っているじんたんと言葉を交わす。
荷物を下ろして上着を脱ぎ、じんたんの横に座った。
鼻をかすめるじんたんの香り。
久しぶりで、思わず近くによってしまう。
この無意識の動作は
全部俺の " 意識 " に支配されているのだが。
その " 意識 " 。
それは世間では認められないもので
隠し通さなければいけないもの。
なのに俺は、
その " 意識 " を変えられることなく
ずっとじんたんを想ってしまっている。
できれば長い時間一緒にいたくて
撮影時間をいつもより長くしてみたり
できればそばにいたくて、撮影部屋の
古くて狭いソファを新しい物に変えなかったり
できれば気づいて欲しくて
それらしい発言をしてみたり。
なんか俺、まるで乙女みたいじゃん。
その何気ない言葉だって
" じんたん " というベクトルに
俺が傾いてしまうファクターのひとつなんだよ。
伝えたい、
伝えられない。
思わず口をついて出た言葉。
大丈夫?と聞かれる。
確かにそうかもしれない。
" 意識 " が " 無意識 " に。
まだ出会った頃は
走り回って馬鹿みたいに笑ってただけで
それだけで幸せだったのに。
それに満足出来なくなってしまった理由が
分からなかったのもきっと
大人になりすぎてしまったからで。
大人ってそんな簡単な問題すら解けないっけ。
もう前みたいに踊るような毎日は送れない。
時間は戻せない。
じんたんに出会わなければ、
何回そう思っただろうか。
でも、思い出 " メモリー " は消せない。
じんたんがなにかに落ち込んだ時、
" じんたんはひとりじゃないから、"
って言って励ましたりしたけど。
今この状況になったら
もう俺だって人のこと言えないじゃないか。
俺自身、そばにいてあげられてないんだから。
でもせめて会えている時間だけでも
楽にしてあげられたらなって。
俺はじんたんのこと、想いすぎている。
" 会える? "
そうじんたんから連絡が来た時
ちょうど仕事が入っていて会えなかった。
忙しいのはじんたんと一緒がいいなんて。
一人で忙しい気持ちになって
じんたんのことが気がかりで落ち着かなくて。
後に何かが迫ってきているのにも気づかず
ただ俺はじんたんに想いを伝えることだけを考える。
なぁ、神様。
もしいるなら、
見守ってないでさ。
いざと言う時なんだから
背中ぐらい押してくれよ。
この1歩を踏み出せば幸せになるよ、
そう言ってくれるだけでもいいからさ。
もし最悪な結果になっても
今のうちに後悔しない生き方した方がいいのかな。
その言葉と共にじんたんを部屋に置いて
雲ひとつない空の下に出た。
そしてその空を見上げる。
できるだけ精一杯に手を伸ばして、
だけどでも、届かないのは当たり前で。
" 当たり前 " じゃないことに
挑戦するのはそんなにおかしいことか?
空に手を伸ばすように
じんたんに手を伸ばしてみても
いいのかもしれない。
そう考えると
嫌な気持ちや重い足取りだって
軽くなった気がした。
俺の心を、青色が満たす。
俺はまだまだ歩けるんだから。
涙で滲んだ先でもどこへでも。
次に空を見上げる時は
背負うものが軽くなった時。
そう心に決めて。
下ばっか向いてないで、
今までの自分に、負けないように。
そうすればきっと、笑えるから。
もっと頑張れ。自分 / スカイピース
◎ Arrange by ぴぃち .
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。