《☆イニ☆side》
テオくんにそう聞かれたのは突然のことだった。
撮影と撮影の合間。
撮影部屋の狭いソファの上で。
テオくんがそういう類の話をしてくることは
滅多にないため、思わず顔を向ける。
一方テオくんの方は
この話に興味があるのかないのか分からないほど
iPhoneに目を向けていた。
俺の中が小さな意地を張ったのか
同じようにiPhoneに目を向けながら答える。
ただのホーム画面なのだが。
それはこっちの台詞だよ、と
何故か俺の心が叫んでいた。
何気なく言った言葉。
これはテオくんを理解して言った言葉だ。
テオくんは自分が納得する恋じゃないと
絶対にその恋を進展させようとしない。
だからリスナーさんだって、
女性YouTuberさんだって、
容姿が良くて十分可能性があるのに
そんな人たちには目もくれない。
だからまだ
テオくんにも彼女がいるとは思えなかった。
もちろん、好きな人も。
意味深な間。
まるで気になる人がいるかのような。
そして今、その恋に挑戦しているかのような。
冗談交じりに聞いた。
何故か、
" いないよ "
その言葉を待ちながら。
だけどどちらの意味でも
テオくんから返事は返ってこなかった。
クエスチョンをクエスチョンで返される時ほど
混乱することはない。
それにこの問題は答えにくかった。
だって俺は、
俺の恋愛対象は、
" きっと "
テオくんだからだ。
女でも、男でもなく、
テオくんというひとりの人間。
遠回しにそれを伝えようと試みる。
俺らしくないが。
やっぱりついた嘘は、バレてしまうようだ。
ただし、テオくんだけに。
俺が心を許せる人なんて、数える程度しかいない。
それも片手のうちに入る。
そろそろ勘の強いテオくんなら
気づいてると思うんだけど。
返事が返ってこないためテオくんの方を向くと
ぼーっとしてるような、考え事をしてるような
焦点が合っていないような目をしていた。
さっき聞きそびれたことを聞く。
そういった声には、迷いがなかった。
どうやら、
" 気になる "
ではなく、
" 好き "
という類に値しているのだろう。
少しだけ、俺の心が沈んだ気がした。
いや、少しではない。
汚い沼に、どっぷり浸かったような。
俺であることは100%の確率でないのに
まだ少しだけ、期待が顔を覗かせていた。
なんだ、
…全然、真逆じゃんか。
俺が相方であるはずなのに
それよりそばにいてくれてる人、か。
分かっていたはずなのに
目の奥が熱くなっていくのを感じる。
喉の奥が詰まって
声をだしたら、すべて溢れ出てきそうな感情。
決心したような声だった。
その声はやっぱり、
いつ聞いてもかっこいい。
そのかっこよさに、
そして届かず、儚く散った感情に、
俺の涙腺は同情してくれたのか、
目尻からイラナイ物を流してきた。
バレないようにそっぽを向く。
そのちょっと情けない声も
俺だけが聞いていたかったのに。
俺だけが
みんなの知らないテオくんを知っていたかったのに。
その人の理想なんて、
テオくんだったら絶対満たしてるよ、いい人だもん。
左から聞こえるその声が、
また俺の涙腺を刺激する。
応援しないわけ、ないじゃん。
テオくんの幸せが俺の幸せなんて、
ちょっとベタだけどさ、
相方でいる以上、
かっこいい相方でいさせてよ。
でも神様はそれすら許してくれないのか、
俺の口から出た言葉は、
少し涙を含んだような、
掠れた声だった。
お願いだから、バレないで。
大きく息を吸って、呼吸を整える。
テオくんの背中を押す準備を。
なんだよ、まだ話あんのかよ。
本当、喋りたがり屋さんだ。
さっきよりは少しマシな声で返す。
早く言ってよ、
もう諦めたいんだからさ、
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!