第4話

告白
622
2018/03/20 10:03
《☆イニ☆side》




テオくん
じんたんってまだフリーなの?





テオくんにそう聞かれたのは突然のことだった。





撮影と撮影の合間。





撮影部屋の狭いソファの上で。




テオくん
来年の7月までには彼女作るって目標、立てたじゃん?





テオくんがそういう類の話をしてくることは
滅多にないため、思わず顔を向ける。





一方テオくんの方は
この話に興味があるのかないのか分からないほど
iPhoneに目を向けていた。




☆イニ☆
…まだだよ、





俺の中が小さな意地を張ったのか
同じようにiPhoneに目を向けながら答える。





ただのホーム画面なのだが。




テオくん
じんたんもか、先越されてるかと思った





それはこっちの台詞だよ、と
何故か俺の心が叫んでいた。




☆イニ☆
テオくんなら作ろうと思えば作れるでしょ、





何気なく言った言葉。





これはテオくんを理解して言った言葉だ。





テオくんは自分が納得する恋じゃないと
絶対にその恋を進展させようとしない。





だからリスナーさんだって、





女性YouTuberさんだって、





容姿が良くて十分可能性があるのに
そんな人たちには目もくれない。





だからまだ
テオくんにも彼女がいるとは思えなかった。





もちろん、好きな人も。




テオくん
確かに作ろうと思えば、ね





意味深な間。





まるで気になる人がいるかのような。





そして今、その恋に挑戦しているかのような。




☆イニ☆
…何、好きな人いんの?





冗談交じりに聞いた。





何故か、





" いないよ "





その言葉を待ちながら。





だけどどちらの意味でも
テオくんから返事は返ってこなかった。




テオくん
じんたんはどんな人に惚れるの?





クエスチョンをクエスチョンで返される時ほど
混乱することはない。





それにこの問題は答えにくかった。





だって俺は、





俺の恋愛対象は、





" きっと "





テオくんだからだ。





女でも、男でもなく、





テオくんというひとりの人間。




☆イニ☆
…かっこいい人、





遠回しにそれを伝えようと試みる。





俺らしくないが。




テオくん
え、じんたんってふわふわ系が好きなんじゃなかったっけ?





やっぱりついた嘘は、バレてしまうようだ。





ただし、テオくんだけに。




☆イニ☆
…心を許せる人、





俺が心を許せる人なんて、数える程度しかいない。





それも片手のうちに入る。





そろそろ勘の強いテオくんなら
気づいてると思うんだけど。




☆イニ☆
…でも理想だから、まだいない





返事が返ってこないためテオくんの方を向くと
ぼーっとしてるような、考え事をしてるような
焦点が合っていないような目をしていた。




☆イニ☆
逆にテオくんは?もう気になる人、いちゃったりするんだ?





さっき聞きそびれたことを聞く。




テオくん
いるよ





そういった声には、迷いがなかった。





どうやら、





" 気になる "





ではなく、





" 好き "





という類に値しているのだろう。





少しだけ、俺の心が沈んだ気がした。





いや、少しではない。





汚い沼に、どっぷり浸かったような。




☆イニ☆
…誰?





俺であることは100%の確率でないのに
まだ少しだけ、期待が顔を覗かせていた。




テオくん
可愛くて、気遣いができて、でも意外と頼れるところがあって、そばにいてくれる人、





なんだ、





…全然、真逆じゃんか。





俺が相方であるはずなのに





それよりそばにいてくれてる人、か。





分かっていたはずなのに
目の奥が熱くなっていくのを感じる。





喉の奥が詰まって
声をだしたら、すべて溢れ出てきそうな感情。




テオくん
…もう、告白する予定





決心したような声だった。





その声はやっぱり、





いつ聞いてもかっこいい。





そのかっこよさに、





そして届かず、儚く散った感情に、





俺の涙腺は同情してくれたのか、





目尻からイラナイ物を流してきた。





バレないようにそっぽを向く。




テオくん
でもその人の理想、割と高いんだよな〜、ちょっと怖いや





そのちょっと情けない声も
俺だけが聞いていたかったのに。





俺だけが
みんなの知らないテオくんを知っていたかったのに。





その人の理想なんて、
テオくんだったら絶対満たしてるよ、いい人だもん。




テオくん
…じんたん、応援してよ、





左から聞こえるその声が、





また俺の涙腺を刺激する。





応援しないわけ、ないじゃん。





テオくんの幸せが俺の幸せなんて、





ちょっとベタだけどさ、





相方でいる以上、





かっこいい相方でいさせてよ。




☆イニ☆
…テオくんなら大丈夫だよ、頑張れ





でも神様はそれすら許してくれないのか、





俺の口から出た言葉は、





少し涙を含んだような、





掠れた声だった。





お願いだから、バレないで。




テオくん
…じゃあ、頑張ろうかな、





大きく息を吸って、呼吸を整える。





テオくんの背中を押す準備を。




テオくん
…じんたん、





なんだよ、まだ話あんのかよ。





本当、喋りたがり屋さんだ。




☆イニ☆
何?





さっきよりは少しマシな声で返す。




テオくん
…俺、





早く言ってよ、





もう諦めたいんだからさ、




テオくん
…じんたんのことが、好き

プリ小説オーディオドラマ