《テオくんside》
服汚しちゃった、と
焦点が合っていない目をこちらに向けるじんたん。
あどけなさを感じるその顔の割に
背負っているものが多すぎると感じた。
ただ抱きしめて
背中を撫でてやることしか出来ない自分に
嫌悪感を抱く。
そう言われ、じんたんのリュックに手をかける。
目当てのものをとった時、チラッと見えたもの。
じんたんの目が見えないことをいいことに
お茶を渡した後、その物体を手に取る。
" 幸せ " と書いてある絵本だった。
作者などは書いていない。
表紙に描いてある絵の感じからして
素人が書いた絵本だと解釈した。
もともと絵本が好きだったからか
無意識に表紙をめくる。
だけどこの目に入ってきた内容は
信じられないものだった。
今じんたんの身に起こっていることと
ありえないぐらい類似しているのだ。
そして登場人物の名前に惹かれる。
" エメ "
" トレゾア "
" アモール "
" ルミエール "
どこかの歌でも聞いたことがある単語だ。
意味はわからない。
でも俺の " 勘 " が
その意味の中に、また新しい " 意義 " があるという。
ポケットに入っていたiPhoneを取り出し
すぐさまSafariを開いた。
" エメ 日本語訳 " と打って検索する。
どうやらこれはフランス語らしかった。
" トレゾア "
" アモール "
" ルミエール "
についてもすべて調べた。
そして分かった気がした。
" エメ "
それは " 愛 " を表すもの。
この世界でいえば
俺とじんたんが結ばれたことと考えると辻褄が合う。
" トレゾア "
宝物。
じんたんのお父さんのことだろう。
" アモール "
愛する人。
これはきっとじんたんのお母さんのこと。
" ルミエール "
光。
じんたんの目から光が奪われたこと。
叶ってはいけない恋だったのだ、所詮。
俺とじんたんの、2人だけの恋は。
この恋が引き金となって
この絵本の通りになってしまったのだ。
これは避けることが出来ない現象だった。
" 運命 " と言ったらいいのだろうか。
誰のせいでもない。
だからこそこんなにモヤモヤして。
そうかと言って
今更じんたんを1人に出来るわけではない。
この恋がこの結果を招いたのなら
守り抜いてやらなきゃいけない、俺が。
" ペルドル "
その単語は調べたくなかった。
意味を知ってしまったらもうそこまでな気がして。
正々堂々と、運命に立ち向かってやるから。
根拠の無い、そしてその根本すらない、
筒抜けの " 自信 " だけを抱いて。
これから起こることさえも分からず。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。