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第25話

25話 後日談「アブノーマルな休日」
1,852
2021/05/18 04:00
笹葉 拓
笹葉 拓
あいつの気持ちを無下にしないように、
俺たち、ちゃんと幸せになろうな
あなた

はい……

あなた

(ありがとう、来希)

あなた

(あなたが支えてくれたから、
私は……こうして本当の恋を
手に入れられた)

笹葉 拓
笹葉 拓
これはその誓いだ
私たちは未来を約束するように、
もう一度口づけを交わした。

この柔らかな感触を、
私は絶対に、絶対に忘れないんだろう──。

***

コンクールから数日後。

付き合い始めて、
初めて迎える日曜日。

私は拓先輩の家にお邪魔していた。
笹葉 拓
笹葉 拓
なんか、変な感じだな。
俺の部屋にあなたがいるとか
あなた

だって先輩、受験勉強あるでしょう?
デートなんかしたら、その大事な時間を
削ることになっちゃいますし

笹葉 拓
笹葉 拓
でも、いいのか?
もっと恋人らしいこととかしなくて……
あなた

先輩と同じ空間にいられれば、
それで十分ですよ

笹葉 拓
笹葉 拓
おまっ……俺をキュン死に
させる気か!
あなた

先輩って、乙女ですよね

胸を押さえて悶絶している拓先輩。

私はくすっと笑いながら、
次に練習しようと思っている
曲の楽譜に目を走らせる。
笹葉 拓
笹葉 拓
俺だけっていうのは、
ずるいと思うぞ
あなた

……?

目の前が陰って、顔を上げると──。
あなた

先輩、近くないですか?

ベッドに寄り掛かって座っている私に、
拓先輩が覆い被さってくる。
笹葉 拓
笹葉 拓
うちの親、共働きで
まだ帰ってこないし。兄弟たちも、
日中は親せきの家で遊んでる
あなた

は、はあ……

頬を染め、眉を寄せ、
呼吸を少し荒げる拓先輩。

いつもと様子が違う恋人に、
鼓動が加速する。
笹葉 拓
笹葉 拓
楽譜はもういいだろ。
俺も勉強はあとにする。だから……
拓先輩は私の手首をやんわりと掴んで、
ベッドに縫いつけた。
あなた

せ、先輩……

あなた

(もしかして、このまま先輩と……?)

笹葉 拓
笹葉 拓
もっと、もっと俺に見せてくれ。
あなたの新しい表情を
私の首筋に顔を埋めて、
すうっと匂いを嗅がれた。
あなた

は、恥ずかしいので、
そういうのは、やめ……っ

笹葉 拓
笹葉 拓
悪い、無理だ。
あなたの匂いも、体温も、
全部知りたい
あなた

(こんなに、求められてる。
それなら、もう迷う必要はない)

あなた

全部……全部、先輩にあげます。
私も知ってほしいし、
拓先輩のことも……教えてほしいから

返事の代わりに、
拓先輩は私の唇を奪う。
あなた

(こうやって、私は拓先輩に
全て奪われていくんだろう)

あなた

(幸せです、先輩。
失った悲しみが薄れるほど、
拓先輩が私に想いを注いでくれるから)

笹葉 拓
笹葉 拓
……好きだ
大好きな人の手が、
私の服を脱がすのと一緒に、
心を暴いていく。
あなた

私も好きです。
すごく、すごく……拓先輩のことが

あなた

(悲しみを紛らわせるためじゃなくて、
お互いの想いをひとつにするための
触れ合い)

あなた

(それがこんなにも心を満たして
くれること、初めて知った)

笹葉 拓
笹葉 拓
大事にする。ずっと、ずっと
大好きな人の囁き。

昼下がりの温かい日差しと、
拓先輩の温もりに抱かれて……。

私は全てを委ねるように、
そっと瞼を閉じたのだった。

(END)

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