本番、私はふたりを思い浮かべながら、
ショパンの子犬のワルツを演奏した。
(拓先輩の天真爛漫な弾む音、
来希のしっとりした色気のある音)
(ふたりの存在が、
無色だった私のピアノに色をくれる)
観客席を見なくても、
ふたりの温かな眼差しを感じる。
(ひとりじゃない。
そう思えるから、私……
ここで弾き続けていられるんだよ)
感謝を込めて最後まで弾き終えると、
喝采が私を包んだ。
そこで初めて、演奏が終わったことに気づく。
(私、夢中だった……。
全力で、弾くことを楽しんでた)
じわっと肌に汗が滲んでいる。
息も少しだけ乱れていて、
立ってお辞儀をするのを一瞬、忘れていた。
(いけない、挨拶……)
心地いい疲労感の中、
ステージの前に出て、
私は会場の観客にお辞儀をした。
拍手がいっそう大きくなり、
ふわふわとした気持ちで舞台袖に戻る。
(会いたい、ふたりに──)
結果を見る気がなかった私は、
すぐにふたりのもとへ駆けた。
【拓side】
観客席にいた俺は、生き生きと弾くあなたを見て、
つい涙ぐんでしまった。
(やっと、苦しみから
抜け出したんだな)
ずっと鼻をすすると、
来希が半目で俺を見る。
……先輩って、ほんと
純粋ですよね
それ、褒められてる気がしないぞ
若干けなしてますしね
おいっ
にこっと笑いながら、
来希は容赦なく毒を吐く。
(そりゃそうだよな。
来希からすれば、
俺は彼女にまとわりつく
悪い虫……みたいなものだしな)
でも……
あなたのピアノの音色が
豊かになった
来希の目は優しく細められている。
(こいつ、最初は女の子に
だらしなかったみたいだけど、
今は……。あなたのこと、
大事に想ってるんだな)
嬉しいことのはずなのに、
どうも胸がズキズキと痛む。
(俺は……来希が心変わりしようと、
あなたが来希を求めてようと、
それでも……)
(あなたが好きだ)
(やっぱり、どうしたって
応援できない。
俺って、すげえ傲慢だったんだな)
先輩が……あなたを
変えたんだな……
なに言ってんだよ。
変えたのは来希の存在も
あったからだろ?
そうかもしれないけど、でも……。
あなたは基本的に、人に弱みを
見せないでしょ?
たしかに、自分の内に抱え込んで、
じっと耐えてるところがあるよな
よくわかってるー、先輩。
そんなあなたが、先輩には
自分の弱みを見せた
お前には見せてなかったのか?
彼氏だろ
痛いとこ突かないでよ、先輩
え、わ、悪い!
(でも俺、なんか悪いこと言ったか?)
まあ、いいけどさー。
俺、あなたが母親のことで、
あんなに悩んでること、
知らなかったんですよ
その時点で勝ち目ないわって、
そう思いましたね
困ったように笑って、
俺の肩をぽんっと叩く来希。
だから、とっておきの情報を
教えてあげますよ
とっておき?
もったいぶるなよな
俺とあなた、とっくに別れてる
まさに寝耳に水、
俺の頭は来希の言葉をすぐに
理解できなかった。
……、……、……え?
(今、なんつった?)
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