第4話
4話 正反対の恋
拓先輩は純粋で、まっすぐで、
健全な恋をしていて……。
私とは対極にいるような存在。
だからかな、興味がわいていた
のかもしれない。
あれから、放課後になるたび、
音楽室に恋愛相談にくるようになった拓先輩。
私もピアノを弾かずに、
話にちゃんと耳を傾けるようになっていた。
悲しみから逃げて、心を閉ざした自分。
来希も、いつもチャラチャラしてるけど、
あれはあれで苦労してるのだ。
キャバクラで働く母親と2人暮らしで、
母親は彼が幼い頃から男を家に
連れ込んでいたのだとか。
だから、女そのものに失望している。
たぶん、欲求不満を解消するために
都合がいい存在……程度にしか
思っていない。
一途に誰かを想う拓先輩を見ていると、
自分と来希の関係がどれだけ
虚しいのかに気づく。
そう思ったら心が沈む。
気づかないうちに俯いていると、
拓先輩が下から私の顔を覗き込む。
慌てて平静を装うも、
拓先輩は心配そうに黙り込んでいた。
少しして、なにかを思い出したように
ポケットに手を突っ込む。
拓先輩が私に差し出したのは、
ソーダ味の飴だった。
拓先輩は犬猫にするみたいに、
私の頭をわしゃわしゃと撫でた。
鼓動がとくんっと跳ねる。
来希は相手を素直に甘やかしたりしない。
私がなにを求めているのかを探って、
わざと妬かせるような行動をとったり、
焦らしたり……。
駆け引きの行程をゲームみたいに
楽しんでいる。
わざとらしく眉をハの字にして、
先輩は肩をすぼめてみせた。
飴ひとつで、
胸が軽くなっている自分に驚く。
***
拓先輩が帰ったあと──。
入れ替わるように音楽室に入ってきたのは、
来希だった。
ピアノの前に座っている私に近づく来希。
私の髪を掻き上げ、
あらわになった首筋に唇を押しつけてくる。