そっか……そっか、
よく頑張ったな!
拓先輩がぎゅっと私を抱きしめてきた。
目を見張っていると、
背中をあやすようにさすられる。
つらかったはずなのに、
本当に頑張った
……っ
鼻がつんとして、
目の奥が熱くなる。
(優しくされたら、
もう虚勢なんて張れない)
ぶわっと涙があふれてきた。
うっ……ふう
嗚咽をもらすと、
拓先輩が私の頭を強く
自分の胸に引き寄せた。
少しずつでいい、
焦らなくていいから
あなたのスピードで
本当の音を取り戻していけばいい
はい……はい、
ありがとうございます
その胸に顔を押し付ければ、
背中を抱く腕に力がこもる。
そばにいる
(まるで、拓先輩の彼女に
なったみたい。そんなわけない、
なのに……幸せ)
目を閉じて、
温かい胸に身体を預けていると……。
なあ、ちょっと俺に付き合って!
えっ
拓先輩は私の手を掴み、
どこかへと連れていく。
(もうっ、急になんなの!)
***
(これは、どういうこと?)
私はなぜか、拓先輩の兄弟が通っているという
保育園に来ていた。
俺、兄弟の送り迎えすることも
あるからさ、先生とも顔見知りなんだ
だからって、なんで保育園に?
おーい、みんな。このお姉ちゃんが
なんでも弾いてくれるってよー
私の問いには答えず、
拓先輩は信じられない言葉を
みんなに投げかけた。
お姉ちゃん、なんか弾いて!
早く早くーっ
ピアノを弾いてとせがまれて、
私は助けを求めるように先輩を見る。
ピアノ弾く許可なら
とってあるから
そこが問題なんじゃなくて、
私、大勢の人に聞かせられるような
ピアノ、まだ弾けないのに……
俺はあなたのピアノが好きだ
なっ……
(好きって、心臓に悪いから
やめてほしい)
拓先輩は戸惑っている私の手を引き、
ピアノの前に立たせる。
俺にいつも聞かせてくれてるだろ。
みんな、あなたのピアノを
気に入るはずだ
自分が信じられないなら、
俺の言葉を信じろって
(いつもまっすぐな拓先輩は、
嘘をつかない。だから、私は……)
先輩に促されるようにして、
ピアノの前に座る。
(先輩の言葉を信じて、
弾いてみたいなんて思ってしまうんだ)
先輩を信じて、私は子供が好きそうな
猫ふんじゃったやキラキラ星を弾く。
猫ふんじゃった、猫ふんじゃった
ふんじゃー、ふんじゃー、
ふんじゃった、あははっ
園児たちは好きなように歌って、
楽しそうに笑っている。
思った以上に私のピアノは大好評で、
自分の音楽でみんなが笑顔に
なっていくのを見ていたら……。
(自分のピアノが
少しだけ好きになれた気がする)
ピアノをやってて、
つらいこともあったと思うけどさ。
逆に楽しいこともあったはずだ
これからは悲しい記憶が薄れるくらい、
ピアノを弾いてて楽しいって思える
瞬間を作っていけばいい
(そっか、私は悲しみを忘れたくて、
お母さんの死から目を背けてきたけど……)
(忘れようとしなくていいんだ。
過去ばかり振り返るんじゃなくて、
今や未来を見ていけばいい)
(楽しい思い出を重ねていけば、
いつか悲しみに向き合える日がくるから)
ようやく目が覚めた気がした。
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編集部コメント
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