私も含め、壮真と來春は眼前の光景に硬直する。
未来人たちに連れられて来た場所。
そこはなんと、來春の家だった。
壮真は黒髪ロングの女性を見上げる。
けれど、黒髪ロングの女性は不思議に少しだけ口角を上げるだけだった。
來春は私の服の裾をぎゅっと握って、目の前にある自分の家を見つめている。
その表情は、驚いていると同時に‥‥‥怖がっているようにも見えた。
ポニーテールの女性はそう言ってにこっと笑う。
私がそう質問すると、ポニーテールの女性は笑顔のまま少し時間を置いて、こくりと頷いた。
その姿は、どこか言葉を詰まらせていたようにも見えた。
短髪の男性はにかっと笑い、來春の家────いや、今はポニーテールの女性の家の敷地内に入っていった。
私たちもそれに続いて、恐る恐る屋敷に入る。
そして広い日本庭園を抜けて、家の中へと入った。
その後、私、壮真、來春は黒髪ロングの女性に少し広い部屋に案内された。
そこは、机一つと椅子一つ、障子を開ければ日本庭園が見られる部屋で、私の知る來春の家はこの間取りはあってもこの机と椅子はない。
………ここが未来と言うのなら、何故未来の來春と來春のおばあちゃんがいないのだろう。
何故、この人たちが住んでいるのだろう。
本当に信じても良かったのだろうか。
お菓子を取ってくると言って部屋から出て行った黒髪ロングの女性が、いきなり後ろから声を掛けてきた。
手で口を押さえて優雅に笑う黒髪ロングの女性。
ふと顔から笑みが消えたかと思うと、黒髪ロングの女性はすぐそこにあった椅子に腰をかけて持っていたお菓子を机に置いた。
二週間ここで過ごす‥‥‥?
その言葉に、一瞬理解が遅れた。
──────二週間後に終わる‥‥‥?
すると黒髪ロングの女性は、椅子から立ち上がって歩き出し、障子を開けた。
もう辺りは暗くなり始めていて、部屋に少し涼しい風がふわりと入ってくる。
そう言って笑う黒髪ロングの女性の黒髪が、風に揺れる。
経験者は語る‥‥‥ということは、この人は未来に行ったことがあって、そこで二週間過ごした後もとの時間へ帰った……という事になる。
黒髪ロングの女性はそう言うと、可愛らしく笑った。
悪い人じゃない。それだけは今分かった気がする。
その声に少し驚いて部屋の入り口に目をやると、短髪の男性が立っていた。
短髪の男性と黒髪ロングの女性は少し会話をして、部屋を出た。
私たちもそれに続く。
‥‥‥お菓子そのままだけど、良かったのかな?
夕食を食べる所まで行く途中、黒髪ロングの女性は私にそんなことを耳打ちしてくすっと笑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。