彗星を見る公園に行くと、壮真は永遠からもらった羊毛フェルトのライオンを大事そうに持っていた。
壮真は私を見つけると、楽しそうに手を振る。
‥‥‥明らかに空元気だったが。
壮真は声を落として苦笑いをする。
あぁ‥‥‥そうか。まだ来てないんだ。
來春は私たちと少し離れた所にぽつんと立っていた。
まるで人形のように、動かない。いつまで経ってもぼーっとしている。
‥‥‥本当に生きているのかと心配になるくらい。
私は昨日、声も隠さず泣き叫んだ。
だからその分、少しだけ落ち着いている。
でも、こはちゃんは?
好きな男の子に「だいきらい」だなんて言われて、泣くことすらできなくて、私より何倍も何十倍も苦しいはずだ。
辛くて、悲しくて、どうしようもないはずなのに。
ショックが大きすぎたのかな。
こはちゃんは、まるで死んでしまったかのよう。
気付けば私は來春を抱き締めていた。泣いていた。
本当、私は泣き虫だ。
こんな時に泣くことしかできないなんて。
まるで赤ん坊をあやすかのように私の頭を撫でる來春。
‥‥そうだよ。私は大丈夫。でもね。
────こはちゃんは大丈夫じゃないでしょ?
ねぇ、こはちゃん。今、どれだけ苦しい?辛い?悲しい?
言ってくれなきゃ分からないじゃない。
五年生の冬の時みたいにさ、ぶつけてもらわないと分からないよ。
こはちゃん、お願いだから。
お願いだから─────────
周りには彗星を見に来た人がたくさんいる。
ここで泣いてしまったら人に見られてしまう。
でも、それでも、我慢だけはしないでほしい。
これ以上、我慢しないでほしい。
すると、來春は声を押し殺して泣いた。
私と抱き合ったまま、私の肩に顔を埋めて静かに泣いた。
周りの人たちは会話を止めて、不思議そうに私たちを見つめる。
公園はすっかり静まり返ってしまった。
今度は私が來春の頭を撫でる。
あぁ、良かった。やっと泣いて‥‥‥
────────ヒュォォォォォォ!
突然、頭上から大きな音が聞こえた。
さっきまで静かだった周りの人たちは悲鳴を上げて、一斉に公園から逃げていった。
壮真にそう言われて、私は空を見上げる。
空には、小さな彗星がひとつ。
彗星はだんだんと私に近付いて、地面に吸い込まれていくかのようだった。
あぁ、なんて‥‥‥‥‥
一瞬世界が暗くなったかと思うと、ポニーテールをした女性が私を見下ろしていた。
ポニーテールをした女性の後ろから短髪の男性がひょこっと出てくる。
状況がよく分からなくて周りを見渡すと、私の後ろには來春と壮真が眼をぱちくりとさせながら座り込んでいた。
短髪の男性に次いで、また新たに黒髪ロングの女性が出てくる。
黒髪ロングの女性にまた次いで、ぱっとしない──顔はわりかし整っているが──男性が顔を出す。よく見ると背が高い。
私たちを見て少し驚いているようだった。
私がそう言うと、ポニーテールをした女性は私の目線に合わせて屈んで笑った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。