(ど、どうしよう……)
ドアから人が流れ出ていく。
東京の首都、新宿。
乗り降りの人数が多いこともあり、
ドアが開いている時間も、若干長い。
いぶくんと向かい合った形の俺は
逃げるように目線を足元に落とす。
(みっともないな、俺……)
涙が、滲んだ。
その時、だった。
「…ごめん」
─────いきなり腕を強く引かれる。
あまりにも、唐突な出来事だった。
いぶくんは僕の腕を引きながら、
人混みの中を早足で歩いていく。
(え…?!なっ、どうして…?!)
歩くペースに追い付けなくて、苦しくて。
俺は必死になって彼の名前を呼んだ。
「ねぇちょっと!いぶくん…待ってってば!!」
何度も、何度も。
息も絶え絶えになりながら、呼び続けた。
それでも彼は俺の声に構わず進んでいく。
何の反応も、返事もないまま。
(…っ?!)
急に視界が、がくんと傾く。
意識が朦朧として、世界が遠退いていく。
(もうすぐ改札口…なの…に……)
ここで意識が、途切れた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。