さっきまで暑かったのがまるで嘘のように、
自分の血がさぁっと引いていく。
嫌だ。
離れろ。
気持ち悪い。
頭がパニックに陥る。
(これって…痴漢じゃ……)
気づいた瞬間、再び冷たい汗が流れる。
怖い。
今すぐ、ここから逃げなければ。
必死に抜け出そうとするも、
相手の力が強く、思うように動けない。
周囲に助けを求めようかにと考えるが、
男が痴漢されてるなんてことを
周囲に知らせる勇気なんて、
これっぽっちも持っていなくて。
男は、俺の背中につーっと指を滑らせる。
さすがにまずい。
必死に助けを求めようとしたが、
自分の恐怖心が邪魔をして声が出ない。
(あ…まって……いやだ……いやだ………!!!)
男は気味悪く、
蛇が地面を這うようにして
胸のあたりまで手をまわしてくる。
とっさに身構えようとするも、
男の子力と満員電車が邪魔をして
ほとんど身動きがとれない。
「……ひぁ…っ……!」
突然胸の先を弄られて、変な声が出る。
気持ち悪い。
意識が朦朧としてきた。
あぁ、もう、ダメだ。
反対側のドアが開く音がする。
男の手が腰先まで伸びてきていた、
その時だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!