「ぃ…ゃ………………!」
咄嗟に出た、思いもよらない言葉。
拒絶。
ハッとして彼の顔を覗く。
ただ儚げな瞳が潤む。
真っ直ぐに俺を見つめている。
そんな表情も、やはり彼らしかった。
「ごめん」
俺の思いを塞ぐように、言葉を紡ぐ。
そして、連ねる。
一人で。
「やっぱり、嫌だよね…ごめん」
(………ぅ)
「僕って気持ち悪いよね、ほんと。」
(…ちがう)
「…いきなりごめんね、そうちゃん。」
それだけ言うと、
彼は立ち上がって自室へと足を向けた。
(…勝手だ)
そんなことを言って欲しい訳じゃない。
この声には感情を感じない。
彼の声じゃないから。
──"本当の"彼の声じゃ、ない。
届かなくたっていい。
聞いてくれなくたっていい。
本当のことを、聞きたかった。
こんなことを聞く俺を、許して。
ガキだって思ってくれていいから。
聞こえないフリしてくれて、いいから。
だから──────
「ねぇ、いぶくん。」
「………何」
許して。
「何で俺に───キス、したの?」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!