第3話

もう二度と【五条悟&夏油傑】
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2021/05/15 06:43

✳︎あなたさんさしすと同級生
 0巻、9巻読んでない方はネタバレ注意です!






『ハアッ...ハアッ...‼︎』


もうどのくらい走り続けたのか分からない。
ただ、傑の残穢を追っている。



私は何をしていたんだ。
周りの住民たちへの被害ばかりを気にしていた。


『傑...悟...‼︎‼︎』


断言は出来ないけれど、悟は恐らく上層部から傑抹殺の命を下されている。

だったら....




考えるな‼︎‼︎早く走れ‼︎‼︎



























走りながら私は、10年前のことを思い出していた。








忘れもしない、あの日。
傑が消えた日。


























『...え?』



「傑が...集落の人間を皆殺しにし行方をくらませた。恐らく...両親にも手をかけている」

夜蛾先生が、何をいっているのか、理解することが出来なかった。
ただ、身体中から汗が出てきて、目の前が真っ暗になっていたと思う。



その先のことは、あまり覚えていない。
ただ、蒸し暑い日が続いていた。
























何日か経ったある日、硝子から一本の電話があった。
傑が新宿にいたという。





















『はぁっ...はぁっ....』

その日は3級呪霊の討伐任務があったが、私は迷うことなくそこへ向かっていた。

昔の私は体力も全然なくて、間に合うかどうかさえも分からないのに、ただただ走っていた。




傑に会いたい。
会って聞きたい。





どうして居なくなったの?
なんで自分の...親まで?




































「...あなた?」







懐かしい声が聞こえた。
周りは人が大勢いて騒がしいはずなのに、私の耳には彼の声しか入ってこなかった。
















『傑.......!!!』

服装や髪型、雰囲気は変わってしまっていたが、そこにいたのは紛れもない、かつての友人だった。


「久しぶりだね、あなた。元気にしてたかい?」
『傑.....なんで』
「硝子から聞いただろう」
『それは......でもどうして⁉︎傑は...意味のない殺しはしないって...』
「意味はあるよ」




淡々と話すその姿がなんとも苦しくて、胸が締め付けられた。
ちゃんと傑のことを見れていなかったから...?
だからこうなったの...?
























『ごめんなさい...』

涙が溢れる。

『もっとちゃんと傑のこと見てて...気づいていればこんな...こんなことに...私が...』






























「悟も君も、変わらないね」

傑がふっと笑う。
その優しい顔は、ずっと変わってない。



「何も言わずに居なくなってしまってごめんね。」

傑が近づき、私の涙を手で拭う。
傑の目の下には隈が出来ていた。
私の知らないところで、どれほどの苦労をしていたんだろう。



“どこにも行かないで”

そう言いたかった。






















「だがもう、私の道は決めたんだ。」







































『ハアッ...ハァッ...』




!悟の気配...‼︎


『悟っ!!!!』
































遅かった。

暗い路地で立ち尽くしている悟。
動かなくなっている傑。





「あなた...」

『!...悟...』




悟が振り向く。
誰よりも美しい、宝石のような彼の瞳が、揺らいでいる。

今にも泣きそうだった。

















「...この世界では心の底から笑えなかった」
『!』
「だってさ...傑のヤツ」



“心の底から笑えなかった”





私は傑のことを、何も分かっていなかった。






悟はしゃがみ込んだままうつむいた。




私はただただ泣くことしか出来なかった。


『ごめん...なさい...大事な時に何も力になれなくて...本当に...』




こんなことしか出来ない自分が悔しい。
自分の拳に力が入る。







「.......」


悟が立ち上がった。



























『!!?』

次の瞬間、私は悟の腕の中にいた。





悟は私の肩に顔をうずめた。


「................どこにも行かないで...」


そして、今まで聞いたことが無いような、弱々しい声でそう呟いた。








.........もう二度と離れない。何処にも行かない。
これ以上大切な人を、失いたくない。














『どこにも行かない、ずっと側にいるから』


悟を強く抱きしめた。

悟は強いから、私が出来ることなんてないかもしれない。
でも、今はただそばに居たかった。



『     』


























どのくらいそうしていたんだろう。







「....そろそろ生徒たちの所へ行かないとね」


悟が私から離れる。












「行こう、あなた」




苦しみを帯びた声で悟が手を差し出した。



私は手をとった。




























目の前の切なく笑う蒼い瞳に、涙を流さずにはいられなかった。




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