第10話

本音 最終話 【五条悟】
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2021/05/15 07:05

五条「いやぁ〜あなたが重症じゃなくって良かったよ」


治療室に、五条先生の声が響く。


家入「馬鹿言うな、相手の術式で右腕と左足の機能が低下、頭から出血、雨のせいで体が衰弱しかけていた。全回復には一週間以上はかかる。学長には話を通しておいたから、君は最低でも一週間は休むこと」

その隣で、五条先生の同期、高専の医師である家入硝子さんが話す。



『分かりました...ご迷惑をおかけしまして...』



あれから私は家入さんところへ運ばれ、反転術式で傷を治してもらい、事無きを得た。

といっても、さっき目覚めたばかりなので詳しいことは今聞いたばかり。


ちなみに任務はあのまま五条先生が引き継ぎ、余裕で倒したそう。



色んな人に迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない。








五条「ところでさ〜あなたはなぁんで僕の目見てくれないの?」



五条先生がこっちを向いたので、反射的に目を背ける。
あのあとから、私が勝手に思ってるだけだけど、五条先生の近くにいるのが気まずくて仕方ない。



『え...いやあの五条先生は目を隠していらっしゃるので、見るも見ないも無いかと思うのですが...』

五条「そーいうのじゃなくてさぁーなんか今回の任務終わってから僕のこと全然見てくれないの。言葉遣いもぎこちないし....なんで?」




五条先生が近づいてくる。





『ちょっ...あの...ほんとに...っ』

















家入「オイ」


家入さんが五条先生の服をガシっと掴む。





家入「それ以上あなたに近付いたらセクハラの容疑で訴えるからな」


五条「え〜ん硝子ちゃんこわぁ〜〜い」

家入「..........」


『い、家入さん、』

私でも怒っているのが分かる。




家入さんが一つ息を吐く。



家入「もういい。五条はこれから任務があるだろう?早く行け」

五条「あ〜あ...折角カワイイ教え子が目覚めたっていうのに、上の連中は....」







五条「じゃあねあなた。元気になったらちゃんと僕とお話しよーね」












家入「...まったく、手が早いな...まぁいい、とりあえず君には一週間はここで休んでもらって.....ん?どうした?顔赤いけど」

『え"っ』

家入「.......ぷっ......あはははッそういうことか...wえ...意外ww」

『な.....んの話ですか』


かけてあった布団を頭の上までかぶる。
...こんな顔を見られたくない。



家入「フフッ.....まぁいい...とにかく君は早く回復出来るように、ゆっくり休みな」

『..........ハイ』


家入「あぁ、あとこれ君のスマホ。任務中落としちゃったんでしょ?補助監督の子が届けてくれたよ。じゃあ私は仕事があるから」

『あ、ありがとうございます!気をつけて!』



スマートフォンを受け取る。
電源が点くか心配だったので、ボタンを押してみる。

ロック画面が出てきた。



『良かった....ちゃんと映って...ん?』




LINEに三通の着信。







『野薔薇ちゃんだ』


どうしたのかな?





野薔薇
野薔薇
あなた、目が覚めたって硝子さんから聞いたけど、大丈夫なの⁉︎
もう本当に心配したんだから‼︎‼︎
今任務があって会いに行けないけど、終わったら虎杖たちも連れてすぐ行くから安静にしてるのよ!



野薔薇ちゃん....凄く心配してくれていたんだ...。


野薔薇
野薔薇
あなた、この間のことなんだけど、硝子さんに聞いたら五条と喋ってた女の人、補助監督さんなんだって。
しかも既婚者。
なんか任務の打ち合わせをしてたらしいわよ😉



『えっ』





あ.......そういえば、あの時家入さんのところまで運んでくれた補助監督さん、なんか見たことあるような気がしてたんだよね。

そうだったんだ....。



ん?まだ何か...


















野薔薇
野薔薇
頑張ってね、あなた

































〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
























「あなた入るよ」

『あっ、はーい!』



あれから五日が経った。
家入さんの治療のお陰で怪我も良くなり、今は自分の部屋で暮らすことが出来ている。


「体はどう?」
『もう大分回復しています』
「そう。良かった」


家入さんの目元が緩む。


『家入さんのお陰です、本当にありがとうございました』

「うん...それは良いんだけどさ、なんか家入さんって呼び方ちょっと堅くない?」

『えっ...あ、じゃあ何て呼べばいいですか?』

「下の名前でいいよ。生徒たちは皆そう言ってるし」



『分かりました...じゃあ...硝子さんで』
「うん、そっちの方が良いね」


硝子さんは微笑みながら、“可愛い後輩が出来たみたい”と言った。



「あ、じゃあそんな可愛い後輩に朗報」
『?』




硝子さんの整った顔が、私の耳に近付く。














「........五条が任務から帰ってきて今ひとりで休憩室に居る」

『な"っ‼︎‼︎』

急に何を......⁉︎‼︎


「あはっ真っ赤になってる」
『ちょっとお願いですからそういうこと言うの辞めて下さい!!』

「好きなんでしょ?」

『っ.........』


「フフッ....あ、私もう帰らないと。そうだ悪いんだけど、休憩室に資料があるから取ってきてもらえるかな」

奥の机のね、と付け足す。

『えっ⁉︎ちょ硝子さ....』






行っちゃった.......。







『...........行きますか』



















正直言って、今までは人を好きだという感情が良く分からなかった。

もちろん五条先生のことも。

野薔薇ちゃんや真希先輩に言われるまでは自分で特に意識をしていたつもりもなかったし、ましてや先生を好きになるなんて考えたことも無かった。


.......でも、五条先生が自分じゃない女の人と楽しそうに喋っているのを見て、苦しくなった。
泣きそうになった。

助けてくれた時には安心して、嬉しくて、幸せの涙で前が見えなくなった。



“バカだし個人主義だし勝手だし”

真希先輩の言う通りだと思う。
確かに変なことはするし、非常識人だし、自分勝手。

....でも誰よりも強くて、生徒思いで、優しいところがあることも知ってる。










五条先生のことを考えると、胸が苦しくなる。









これが、“好き”っていう感情なのかな....。





















『.........恥ずかし』


あたたかい風が頬を掠めた。





















『休憩室...休憩室........あ、ここか』

突き当たったところを左へ真っ直ぐ進むと、休憩室と書かれた場所に着いた。



いざドアの前に立つと緊張するな...。

いや、私は硝子さんから資料を頼まれただけ。
何も無い、何も無い。



右手で三回、ノックをする



『....失礼します』

........?


返事がない


『五条先生?.......硝子さんから資料を頼まれたので、失礼しますね』


恐る恐るドアを開ける。
















『.....寝てる』



五条先生は、小さな部屋にあった大きめのソファの上で、足を伸ばしながら眠っている。


.....何気に眠ってるところ初めて見たかも。

やっぱりスタイル良いな。足細いし長いし...。








....とと、いけない。
資料資料。




先生を起こさないようにそーーーっと動く。

『奥の机の資料.....あっ、これか』


先月の受診者リスト....硝子さんは本当に多忙だなぁ...何か手伝えることがあると良いんだけど...。

多忙っていったら五条先生もそっか......。





そんなことを思いながら、側で眠っていた五条先生を見る。










私はその場から動けずにいた。
















時間がゆっくりと進んでいく。










五条先生の寝顔を見ていたら、なんだか切なくなってきてしまった。




『............』










私はきっと今、報われない恋をしている。



でも....それでも良い。





今はただ、そばにいたいだけ。


......それが、今の私の正直な本音。














ただ、勇気を出すのはまだ難しいと思う。



でも、今日はちょっとだけ勇気を出してみたい。


















その場にしゃがむ。






そして、眠っている愛しい人に呟いた。





































































『................大好きです、五条先生』


卒業まで、あと三年。

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