「乱歩さん何してるんです?」
後ろから声を掛けてきた男。
声だけで判った。太宰だ。
・・・若しかしたらあの人が好きかも知れない男。
何だか無性に苛々して「見たら判るだろ。友人に
相談中だ」と少しキツめに言ってしまう。
ハッとして太宰の方を見るが、彼は気にした素振りをせず「えぇ〜相談相手が猫ですか?」と困った様な笑っている様な表情をしたが、顔だけは良いので其れも中々のものとなった。
・・・こんな顔向けられたらそりゃあ惚れるよね。
と、男の僕ですら思う。
男に興味は無いのでトキメキはしないが最近は
太宰の顔が羨ましくなっている。
前は思わなかったんだけどな。
之も与謝野さんを好きになったからか・・・
「・・・乱歩さーん如何かしました?」
「何でもない。何しに来たんだ?」
「乱歩さんを探しに。」
と、口だけを吊り上げてみせる太宰。
此奴もしや_______________
「僕をおちょくって楽しいか」
「何故そういう思考に?」
「お前、僕の気持ちを判ってるだろ。」
その言葉を聞いた太宰は更に口を吊り上げた。
_______________間違いない。
僕が与謝野さんに寄せる気持ちを知っている。
僕は勢い良く立ち上がり太宰と向き合った。
友人(猫)は僕の急な動きに驚いたのか走り去って
しまい、僕と太宰だけが残る。
目の前に立つ男を睨んで僕は言う。
「莫迦にしたいなら勝手にしろ。
けどな、邪魔しようものなら許さないぞ。」
風邪が吹き、髪が、服が、靡く。
太宰は外套を靡かせながら何時もの口調で
「うーん、勘違いをしていますね」と言った。
「僕が勘違い?」
「そういうコトに成りますね。兎に角、私は莫迦にする為に此処に来たんじゃ無いんですよ。」
「・・・じゃ何しに来た」
「お手伝い」
たった一言だったが僕の全身に鳥肌が立つには充分すぎるモノである。
「は?・・・いやいやいや!やめろ!」
「少し厭がり過ぎでは・・・?!」
「知ったことか!僕一人で出来る!」
言った後に僕は気が付いた。
僕、恋愛経験が・・・・・・・・無い・・・・・・・・・・・・・。
つまり恋愛の手順やら順序やらをまるで知らない。
だって興味が無いモノは覚えないのだ。
し、仕方ないだろう
顔に出てただろうか。
太宰はニッコリとした笑顔で
「私が手伝いましょう」と改めて言ってくる。
今度は断ること無くコクリと頷くことにした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!