……あのさ、
烈歌と弦は仲直りした?
名前を呼ばれた感動に浸っていると、
おずおずと音波先輩が尋ねてくる。
あー……たぶん、まだです
じゃあさ、きみが話を聞いて
あげてよ。きっかけがないと、
プライドが邪魔して、お互い
歩み寄れないくらい頑固だし
音波先輩、こんなときに
メンバーの心配して、
優しいんですね
べ、別にそういうんじゃない。
僕はただ、みんなの音をまた
聞きたいだけ。静かすぎるのは、
好きじゃないから
(それはきっと、この広い家で
ひとりで過ごしてきた寂しさを、
みんなが埋めてくれたから
なんだろうな)
強がりで、繊細な音波先輩の心の音が
聞こえてくる気がする。
音波先輩は、
ひとりじゃありません
その手をとれば、すごく熱い。
先輩は繋がれたそれを引っ込めようと
したけれど、私は強く握って離さなかった。
なんなの、急に
みんながいます。
先輩が静けさに耐えられなくなったら、
いつだって駆けつけて、
どんちゃん騒ぎしてくれるはずです
あなた……確かに、やりかねないよね
烈歌たちなら
ふふっ、ですよね
……ありがとう
え?
励ましてくれたんでしょ
私のためです。
音波先輩の寂しそうな顔を見ると、
胸が痛いので
結局それ、僕のためになってるから。
だから、ありがと
ぼそりと、早口でそう言って、
音波先輩は『それ』と私の手の中にある
お粥の器を指差す。
お腹空いたんだけど。
早くちょーだい
あ──はい、ただいま!
なんでうれしそうなの
音波先輩に頼って
もらえたからです!
へ、変なの
変でもなんでもいいです。
お世話を焼かせていただけるなら!
あ、そ。
じゃあ、遠慮なく
こき使わせてもらうから
はい!
私は音波先輩にお粥を食べさせながら、
強く思う。
(弦くんと烈歌くんに教えてあげよう。
ふたりがどれだけ、
みんなに思われてるのか)
***
私はキッチンを借りて焼いた
クッキーとコーヒーを持って、
防音室を訪ねる。
中には弦くんだけがいた。
差し入れです
なんで急に
話がしたくて
素直にそう伝えれば、
弦くんは壁に背を預けるようにして床に座る。
私も、その隣に腰をおろした。
ギターを弾いてるときは、
頭ん中空っぽになるから、
冷静になれる
じゃあ、気持ちは落ち着いた?
ああ、あいつの言うことは
間違ってない。文化祭なら、
盛り上がりが必要だろうからな
響先輩の言ったとおりだ。
ふたりは、時間を置けば
冷静になって、歩み寄れるって
今さら、喧嘩したくらいで
決別したりしない。中1からの
付き合いだからな、烈歌とは
どんなふうに出会ったの?
入学初日に、
同じクラスで隣の席になった
初日から!
運命の出会いだね
ある意味な。でも、あいつと
俺は性格が真反対だろ。
派手好きなあいつの隣の席になって、
最悪だと思った
(ははは……イライラしてる
弦くんの姿が目に浮かぶな)
俺はひとりで
ギターを弾いてるほうが
落ち着くっていうのに、あいつは
俺がギターやってることを知って、
無理やり軽音部に誘ってきた
ふふっ、最初は
私もそうだったな
でも、烈歌の歌に惚れた。
あいつの歌は、心に火を灯す。
俺はその力をもっと膨らませて、
聞き手に届けたい
弦くんは、誰よりも烈歌くんの
歌が好きなんだね
……俺は、なんでべらべらと
こんなことを話してるんだ。
お前相手だと、簡単に本心を暴かれる
目を逸らし、前髪をくしゃりと握る
弦くんは珍しく照れていた。
私は、弦くんのことを
知れてうれしい
……お前のそういうところ、
ときどき憎らしくなる
え! 気分悪くしちゃったのなら、
ごめんなさい
違う、逆だ
弦くんがずいっと顔を近づけてくる。
(な、なに!?)
お前の言葉にハラハラ
させられるのが、
快感になりつつある
──は!?
(か、快感!?)
弦くんらしからぬ言葉に、
私が硬直していると……。
……忘れろ
すぐに私から離れて、
ギターを手に立ち上がる。
もう少し練習したら、
あいつとも話す
わ、わかった。
じゃあ、私は出ていくね
返事はなかったが、
私は部屋を出る。
それから、はーっと息を吐いた。
(あんなこと言われて、
忘れられるわけないよ!)
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!