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第1話

1話 衝撃的、××!?
──高校2年生、7月。

夏休み間近の教室の空気は、
なんだかふわふわしている。

その中で私は、いつも肌身離さず
持ち歩いているノートに一心不乱に
詞を書き綴っていた。

【世界のどこかで泣いてる
きみを見つけ出して】

【この腕に閉じ込めたら始めよう】

【星屑のように煌めく僕らのストーリー】

【きっと……】

そこでシャーペンが止まる。
あなた

(きっと……うーん、
そのあとのいい詞が降りてこない)

私はパタンッとノートを閉じ、
窓の外へ視線を向ける。
クラスメイト1
クラスメイト1
ねえ、知ってる?
隣のクラスの前田くんと園塚さん、
付き合ってるらしいよ
クラスメイト2
クラスメイト2
ええーっ、狙ってたのにぃ
クラスメイト3
クラスメイト3
なあ、放課後カラオケ行こうぜ
クラスメイト4
クラスメイト4
悪い、俺バイト
昼休みだからか、
窓際の席で外を眺めている私の背後から、
クラスメイトたちの騒がしい声が聞こえる。
あなた

(恋愛して、遊んで。
青春をちゃんと謳歌してる
みんなが羨ましい)


うちは代々続く医者の家系で、
私も将来は同じ道に進むよう
両親に言われていた。
あなた

(でも私は、医者になんてなりたくない。
それよりも作詞が好き。だけど……)

お母さん
お母さん
『作詞? そんなもの
将来、何の役に立つのよ』
お父さん
お父さん
『友達なんて作るな。
低能な人間といても、
時間を無駄にするだけだ』
そう、両親にとって友達も夢も無駄なもの。

重要なのは、いかに確実に、
周囲から賞賛される地位につけるかどうか。
あなた

(だから私は、友達を作ることも、
堂々と作詞をすることも許されない。
でも──手放せなかったんだよね)

私は机の上の作詞ノートを指でなぞる。
あなた

(どんなに無駄だって言われても、
作詞だけは……)

***

──放課後。

通っている塾の授業までは
まだ1時間あるので、
私は校舎裏のベンチにやってきた。
あなた

(よし、書くぞ!)

家に帰ると両親がうるさいため、
私は塾前に必ずここへ来て作詞をする。
あなた

(裏庭は人がほとんど来ないから、
穴場なんだよね)


私は瞬き、呼吸すらも惜しいとばかりに、
手を動かす。

そうして、先ほどの歌詞を最後まで書き終えた私は、
やり切った達成感に満足してノートを閉じた。
あなた

(我ながら、すごい集中力)

気分がのってないときは、
歌詞を書き上げるのに何日もがかるのに、
書き始めてから3日で完成したのだ。

自画自賛したくもなる。

私は心地いい疲労感に息をつき、
スマホで時間を確認した。

その途端、サーッと血の気が失せる。
あなた

うわっ、夢中になりすぎた!
塾、始まっちゃう

バタバタと荷物をまとめて、
私は慌てて校門まで走る。

そこで、カバンの口が開いたままに
なっていることに気づいた。

中身を確認すると、
命の次に大事なものが入っていない。
あなた

さ、作詞ノート!

来た道を全速力で戻る。
あなた

(今日はついてないかもっ)

ぜーぜー息を切らしながら、
必死に地面に視線を走らせて
ノートを探していると──。
???
???
──世界のどこかで泣いてる
きみを見つけ出して
あなた

え……

裏庭の入り口まで来たときだった。

耳に飛び込んできた男の子の歌声に、
私は足を止める。
あなた

(これ、私が書いた詞……)

???
???
──この腕に閉じ込めたら
始めよう
私がしたのは作詞だけ。

だけど、詞がメロディに乗り、
それは歌に変わっていた──。
???
???
──星屑のように、
煌めく僕らのストーリー
あなた

(ああ、私の書いた詞って、
こんなふうに優しいバラードに
なるんだ……)

ゆっくりと、
歌に引き寄せられるように歩き出す。
???
???
──きっともう笑えるはずだから
あなた

(あ、あの人……!)

つんつんとした赤い髪。
右耳に髪色と同じピアスをつけた男の子。
あなた

(確か、隣のクラスの……
とどろき 烈歌れっかくん!

轟 烈歌
轟 烈歌
──手を取り合って、
僕だけを見つめて。
きみを離さないから
静かに、烈歌くんの声が空気に溶ける。
あなた

(吐息の余韻まで、耳が離せなかった。
まだ、聞いていたかった)

じっと見つめていると、
烈歌くんが私の存在に気づく。
あなた

あの、そのノート……

轟 烈歌
轟 烈歌
これ、お前の?
あなた

そ、そうです

轟 烈歌
轟 烈歌
つーか、歌詞もお前が書いたのか?
あなた

うっ

あなた

(歌詞を見られるだなんて、
裸を見られるのと同じくらい
恥ずかしいっ)

あなた

その、えっと……はい

あなた

(笑われるかな?
クラスの大人しいボッチ女子が、
こんな詞を書いてるなんて……)

烈歌くんの反応を見るのが怖くて、
私は俯く。

そのときだった、
烈歌くんがふっと笑う気配がしたのは。
あなた

(やっぱり! 
気色悪いって思ったんだ!)

轟 烈歌
轟 烈歌
見つけた、俺の女神
あなた

……え? めが……み?

バカにされるのかと思っていたのに、
想像の遥か斜め上をいく単語が耳に届く。
あなた

(聞き間違い?)

恐る恐る顔を上げると、
いつの間に距離を縮めたのか、
目の前に烈歌くんがいた。

あなた

(──近っ!)

轟 烈歌
轟 烈歌
決めた
さらに一歩、烈歌くんはこちらに踏み込む。

そのまま強く顎を掴まれて、
上向かせられると──。
轟 烈歌
轟 烈歌
軽音部に入れ、俺の女神
いきなり、私は唇を奪われた。
あなた

んん!?