第8話

8話 弦くんの意外な一面
***

翌日──。
あなた

弦くん、昨日は私の具合が
悪いことに気づいてくれて、
ありがとう

放課後、部室にやってきた弦くんを捕まえて、
真っ先にお礼を伝える。
鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
別に
あなた

早く休めたから、
おかげさまで回復しました

鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
…………
弦くんはなにか言いたげに
黙り込む。
あなた

(……? どうしたんだろう)

真宙 弾
真宙 弾
弦先輩は、冷たい言い方したのに
あなた先輩が『ありがとう』なんて
言うから、戸惑ってるんだよ
鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
余計なこと言うな
あなた

(そういうことだったんだ!)

真宙 弾
真宙 弾
な、なにはともあれ、
復活してよかったな!
あなた

弾くん、ありがとう。
みんなにも心配かけちゃって、
ごめんね

真宙 弾
真宙 弾
全然、いいって!
っていうか、今の心配事は
別のところにあるというか……
あなた

え?

苦い顔をしている弾くんが、
響先輩を指差す。
吹賀谷 響
吹賀谷 響
弦、お前はしばらく部室出禁だ
鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
なんでだよ
吹賀谷 響
吹賀谷 響
お前がいちばん
わかってるだろう
ピリピリしているふたりを横目に、
私は弾くんに耳打ちする。
あなた

ねえ、ふたりともなにが
あったの? 話が見えない
んだけど……

真宙 弾
真宙 弾
弦先輩、赤点常習犯なんだよ。
だから響先輩が勉強させようと
してんの
小声で教えてくれる弾くん。
あなた

そろそろ期末テストだもんね

あなた

(意外。弦くん勉強できそうなのに。
人は外見によらないんだなあ)

鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
勉強なんてできなくていい。
俺は音楽だけに集中したいんだ
轟 烈歌
轟 烈歌
同感だな。国語とか数学とか、
いったいなんの役に立つってんだよ
吹賀谷 響
吹賀谷 響
それで留年したら、
元も子もないだろう
奏 音波
奏 音波
音楽バカなのは、似た者同士
真宙 弾
真宙 弾
でも、烈歌先輩は
そこそこ成績維持してるんすよね
あなた

(だけど、弦くんの気持ちわかるかも。
なにを犠牲にしても好きなことを
貫きたいんだよね)

あなた

あの……

会話に割り込むと、
みんなの視線が集まる。

それに緊張しながらも、
私は提案する。
あなた

部活中は今まで通りしっかり練習して、
家で勉強するとき、わからないところが
あったらビデオ通話で私が教えるのは
どうかな

吹賀谷 響
吹賀谷 響
いいのか、負担じゃないか?
自分の勉強もあるだろう
あなた

教えるのって勉強になるんですよ。
ちゃんと自分が理解できてるか、
再確認になるんです

吹賀谷 響
吹賀谷 響
あなたがいいなら止めないが、
無理のない範囲でな
あなた

はい! 弦くん、いいかな?

確認するように弦くんを見ると、
渋々な感じで頷いてくれた。

***
あなた

玉の緒よ絶えねば絶えね ながらへば
忍ぶることの弱りもぞする

鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
現代語訳にすればいいんだな。
確か、我が命……命……
それっきり弦くんの言葉が途切れる。

その夜、私たちはさっそく、
ビデオ通話で勉強会をしていた。

今は古文のテスト勉強中だ。
あなた

弦くん、和歌は物語として覚えると
わかりやすいかも

鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
物語?
あなた

そう。この作品はね、
抑えられない恋の激情を歌ってるんだ

鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
へえ
あなた

このまま長く生き続けていると
今まで誰にも知られないように、と
耐え忍んでいた力が弱って
恋心があふれてしまう

鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
…………
あなた

だから私の命よ、
絶えるのならば絶えてしまって

私の声だけが響いている。

弦くんは静かに耳を傾けてくれていた。
あなた

恋心を隠せなくなったら困るから

言い終えると、沈黙が訪れる。
あなた

弦くん?

あなた

(これで伝わってるといいんだけど、
まだ、わかりづらかったかな?)

じっと返事を待っていたら、
電話越しにため息が聞こえた。
鳴瀬 弦
鳴瀬 弦
お前の声と話し方、
なんか癒される