烈歌くんに連れてこられたのは、
高校から徒歩10分のところにある
ライブハウスだった。
おしくらまんじゅう状態で
ステージを見ていると──。
人混みから守るように、
烈歌くんは私を後ろから抱きしめる。
私の頭に顎を乗せながら、
烈歌くんはうずうずした様子で言う。
これまで男子生徒とは、
ほとんど話したことがない。
もちろん付き合ったこともないので、
適度な男の子との距離感がわからない。
とはいえ、キスに比べたら
ハグなんて可愛いものだ。
なんて思ってしまう私は……。
烈歌くんに毒されているのかもしれない。
烈歌くんのスキンシップへの許容範囲が
どんどん広くなっている自分に戸惑いつつも、
私はなんとか声をかけた。
相槌を打ったとき、
ジャーンとギターサウンドが響く。
ライブハウスの空気が歓声で震えた。
わくわくして、
私はステージに釘付けになる。
オオーッとお客さんたちが盛り上がり、
お腹に響くリズムに合わせて鼓動が弾む。
気づいたら、他のお客さんに合わせて
上下にジャンプしていた。
神経が一気に烈歌くんに集中した。
私は身じろぎしながらも、
烈歌くんを振り返って、強く頷く。
するりと頬を撫でられ、
私は照れくさい気持ちを隠すように、
烈歌くんの胸を軽く叩く。
歓声の中で話していると、
『烈歌!』とステージから
声が飛んでくる。
驚いて烈歌くんを見上げれば、
不敵に笑って私の手を取る。
烈歌くんが私の指先に口づける。
指先に触れる熱と柔らかな感触。
私は今、赤面しているに違いない。
私がフリーズしている間に、
烈歌くんは颯爽とステージへ上がった。
つむじ風みたいに目まぐるしい人だと
思っていると、烈歌くんは
スタンドマイクに手をかける。
烈歌くんはすうっと息を吸う。
その音にすら耳が反応して、
意識を持っていかれた。
烈歌くんの声だけが、
ライブハウスに響いている。
静かに、染み入るように
心を揺さぶる歌に、
誰もが聞き入っている。
胸の奥に火がつくように、
少しずつ全身が火照っていく。
烈歌くんの視線が、
まっすぐに私に向いている。
私の詞が、烈歌くんを通して
みんなの心にも届いてる。
それが、熱心にステージを見つめている
お客さんの表情から伝わってきた。
むくむくと書きたいという衝動が
込み上げてくる。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。