第4話

4話 痺れさせてやるよ、俺の歌でな
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2020/04/22 09:00
烈歌くんに連れてこられたのは、
高校から徒歩10分のところにある
ライブハウスだった。
あなた

わあっ

あなた

(人がたくさん!
もみくちゃにされそう……)

おしくらまんじゅう状態で
ステージを見ていると──。
轟 烈歌
轟 烈歌
あなた、小せえから潰れそうだな。
ほら、もっとこっち来いよ
あなた

え──

人混みから守るように、
烈歌くんは私を後ろから抱きしめる。
轟 烈歌
轟 烈歌
これから、俺たちの
先輩バンドが演奏すんだよ
私の頭に顎を乗せながら、
烈歌くんはうずうずした様子で言う。
あなた

(恋人同士でもないのに、
こんなに密着するなんて……)

これまで男子生徒とは、
ほとんど話したことがない。

もちろん付き合ったこともないので、
適度な男の子との距離感がわからない。
あなた

(でも、烈歌くんのスキンシップが
異常に激しいことだけはわかる!)

とはいえ、キスに比べたら
ハグなんて可愛いものだ。

なんて思ってしまう私は……。

烈歌くんに毒されているのかもしれない。
あなた

せ、先輩バンド?

烈歌くんのスキンシップへの許容範囲が
どんどん広くなっている自分に戸惑いつつも、
私はなんとか声をかけた。
轟 烈歌
轟 烈歌
そ、俺たちもこのライブハウスで
演奏したりすっから、
仲良くなったんだ
あなた

そうなんだ……

相槌を打ったとき、
ジャーンとギターサウンドが響く。

ライブハウスの空気が歓声で震えた。
あなた

(ついに始まるんだ!)

わくわくして、
私はステージに釘付けになる。
バンドマン1
バンドマン1
今日は失神するまで楽しめよー!
オオーッとお客さんたちが盛り上がり、
お腹に響くリズムに合わせて鼓動が弾む。

気づいたら、他のお客さんに合わせて
上下にジャンプしていた。
あなた

(初めて聞く曲なのに、
自然とのれる……!)

轟 烈歌
轟 烈歌
ぶっ倒れそうになるくらい、
興奮すんだろ?
あなた

ちょっ……

あなた

(うなじに烈歌くんの
息がかかるっ)

神経が一気に烈歌くんに集中した。
あなた

(心臓に悪い……)

私は身じろぎしながらも、
烈歌くんを振り返って、強く頷く。
あなた

うんっ、すごく楽しい!

轟 烈歌
轟 烈歌
生き生きしてんな。
今のほうが断然、そそる
するりと頬を撫でられ、
私は照れくさい気持ちを隠すように、
烈歌くんの胸を軽く叩く。
あなた

は、恥ずかしいから
そういうこと言わないで……

轟 烈歌
轟 烈歌
無理言うなって。
思ったことはちゃんと伝えねえと、
すっきりしないタチなんだよ
歓声の中で話していると、
『烈歌!』とステージから
声が飛んでくる。
バンドマン1
バンドマン1
ゲスト出演だ。お前も歌え!
あなた

(烈歌くんがゲスト出演!?)

驚いて烈歌くんを見上げれば、
不敵に笑って私の手を取る。
轟 烈歌
轟 烈歌
痺れさせてやるよ、
俺の歌でな
烈歌くんが私の指先に口づける。
あなた

(ま、またキスされた!)

指先に触れる熱と柔らかな感触。

私は今、赤面しているに違いない。
轟 烈歌
轟 烈歌
俺から目、離すんじゃねえぞ
私がフリーズしている間に、
烈歌くんは颯爽とステージへ上がった。
あなた

(怒りそびれた……)

つむじ風みたいに目まぐるしい人だと
思っていると、烈歌くんは
スタンドマイクに手をかける。
轟 烈歌
轟 烈歌
じゃ、アカペラで
烈歌くんはすうっと息を吸う。

その音にすら耳が反応して、
意識を持っていかれた。
轟 烈歌
轟 烈歌
──世界のどこかで泣いてる
きみを見つけ出して
あなた

(なに歌うんだろうって思ったら、
これ私の歌詞!)

轟 烈歌
轟 烈歌
──この腕に閉じ込めたら
始めよう
烈歌くんの声だけが、
ライブハウスに響いている。

静かに、染み入るように
心を揺さぶる歌に、
誰もが聞き入っている。
あなた

(なんだろう、この感じ──)

胸の奥に火がつくように、
少しずつ全身が火照っていく。
轟 烈歌
轟 烈歌
──星屑のように、
煌めく僕らのストーリー
あなた

(あ……)

烈歌くんの視線が、
まっすぐに私に向いている。
あなた

(まるで、私だけのために
歌ってくれているみたい……なんて。
錯覚しちゃいそう)

私の詞が、烈歌くんを通して
みんなの心にも届いてる。

それが、熱心にステージを見つめている
お客さんの表情から伝わってきた。
あなた

(私の中だけに存在してた物語を
みんなと共有する気持ちよさ)

むくむくと書きたいという衝動が
込み上げてくる。
あなた

(書きたい。
みんなを熱くする詞を──。
烈歌くんが今よりも、もっと輝く歌を!)

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