そのあとも、私は和歌を
自分なりの解釈法で弦くんに伝える。
おかげで、最後のほうは弦くんも
すらすらと現代語訳ができるようになっていた。
***
──次の日。
私は隣のクラスに行くと、
弦くんを廊下に呼びだして、
テスト対策ノートを渡した。
言葉少なにそう言って、
弦くんがノートに手を伸ばす。
指先が触れ合った。
珍しく声を上ずらせて、
ノートを受け取る弦くん。
物珍しくてじっと見ていると、
ノートを開いた弦くんが目を見張った。
弦くんが指さしたのは
ノートのあちこちに貼られた付せんだ。
弦くんの口元が緩む。
思わず目を奪われていると──。
教室の入り口から、
烈歌くんに呼ばれた。
顔が熱くなる。
私は頬を膨らませながら、
烈歌くんのところへ行こうとした。
でも、後ろから腕を掴まれる。
私を引き留めたのは、弦くんだった。
弦くんはなぜか、
戸惑うように視線を泳がせている。
おどけるように肩をすくめれば、
弦くんは苦笑した。
弦くんは私の手を引いて、
烈歌くんの前に立つ。
あれこれ考えていると、
烈歌くんは繋がれた私と弦くんの
手をちらりと見て、眉間にシワを寄せた。
交わるふたりの視線は
なぜかバチバチと火花を
散らしているようだった。
***
あれから……。
歌詞を作りつつも
勉強を頑張ったおかげで、
無事にテストを乗り切ることができた
私と弦くん。
お父さんとお母さんの条件もクリアして、
私は晴れて正式に軽音部に入部することになった。
そして、やってきた夏休み──。
私たちは今日、
海辺をステージにしたサマーライブへ
参加するために海に来ていた。
演奏動画を送った
アマチュアバンドの中から、
審査を通過した10組だけが出られるライブ。
『Passion Bomb』も
見事参加券を勝ち取った。
弾くんが指差した先には、
女の子に囲まれた烈歌くんと弦くんの姿が。
響先輩が自分の着ていたパーカーを脱いで、
差し出してくる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。