第5話

5話 懲りずに口説くからな
烈歌くんの歌が終わると、
お客さんから拍手が起こる。

涙ぐんでいる人がちらほらいて、
まだ烈歌くんの歌の余韻に
浸っているようにも見えた。
轟 烈歌
轟 烈歌
痺れたか? 身体の芯まで
私のところに戻ってきた烈歌くんが、
にやりとする。
あなた

し、痺れるというか……。
その、書きたいなって……思ったよ

轟 烈歌
轟 烈歌
本当か!
あなた

でも、家族に相談してみないと。
塾もあるから……

轟 烈歌
轟 烈歌
わかった。もし答えがノーでも、
俺は懲りずに口説くからな
あなた

(烈歌くんは、やる気を出させる
天才かもしれない)

まるで炎のように
ギラギラとした情熱を宿した
烈歌くんの瞳を見つめる。
あなた

(私の詞を必要としてくれてる
人がいるって、そんな気持ちに
させてくれるから──)

***

家に帰ってくると、
リビングには珍しくお母さんの姿があった。
あなた

お母さん、話があるんだけど……

お母さん
お母さん
なに? このあと病院の当直なの。
手短に話してね
バタバタと化粧をしているお母さん。
あなた

(そんな前振りされると、
話しづらいけど……。
今じゃないと、お母さん忙しいから
捕まらないだろうし……)

私はごくりと喉を鳴らし、
意を決してお母さんの横に立つ。
あなた

私、部活に入りたい

打ち明けると、
お母さんの手がピタリと止まった。
お母さん
お母さん
なんのために?
あなた

なんのためにって……

あなた

(きっとお母さんのことだ。
部活なんて将来に役立たないこと、
する意味がわからないって
思ってるんだろうな)

あなた

軽音部の人に作詞を頼まれたの。
それで私、書いてみたいなって

お母さん
お母さん
あなた、まだ作詞続けてたの?
あなた

うん……

お母さん
お母さん
ダメよ。塾があるでしょ
あなた

でも──

お父さん
お父さん
聞き分けなさい、あなた
厳しい声がリビングに響く。

後ろを振り返ると、
お父さんがリビングの入口に立っていた。
あなた

(お父さん、帰ってたんだ……)

忙しいふたりが、揃って
家にいるのは珍しいことだった。

お父さんはソファーに向かって
歩いていく。

そこに置きっぱなしにしていた
私のカバンの中を漁ると、
作詞ノートを取り出す。
お父さん
お父さん
まったく、こんなものを
いつまでも持ち歩いて
呆れるようにそう言って、
私の作詞ノートを開くと──。

──ビリビリッ!

ページを破り始めた。
あなた

なんで……なんで、
そんなことするの……!

あなた

(作詞は私の魂をつぎ込んで
生まれたものなのにっ)

心をバラバラにされるような
痛みと空虚感に、私は立ち尽くす。
お父さん
お父さん
バカなことを言ってないで、
お前は勉強だけしていれば
いいんだ
***

次の日──。

昼休みを狙って、
烈歌くんがやってきた。
轟 烈歌
轟 烈歌
よう、あなた。
軽音部に入る話、
答えは出たか?
あなた

…………

あなた

(その話題、今はきついな)

まだ歌詞を破られた傷が癒えていない。

私は作詞ノートを抱えて俯いたまま、
顔を上げられずにいた。
轟 烈歌
轟 烈歌
なんかあったのか?
その問いに、ピクッと肩が震える。

少しの間のあと、
烈歌くんは私の腕を掴んだ。
轟 烈歌
轟 烈歌
来い、あなた
烈歌くんは私の返事を待たずに、
腕を掴んだまま、どこかへと歩き出す。
轟 烈歌
轟 烈歌
で、話してみろよ
やってきたのは、
私たちが話すきっかけになった裏庭。

烈歌くんはベンチに腰かけると、
直球で聞いてくる。
あなた

(入部のこと、返事しなきゃ。
だけど、口が重くて動かない)

轟 烈歌
轟 烈歌
我慢してたって、いいことねえぞ。
いつか、心が壊れちまう
あなた

あ……

烈歌くんの手が私の頬に触れる。

その温もりが、
少しずつ私に話す勇気をくれた。
あなた

(確かに、そうかも。
話したら、少しは楽になるかな……)

私は縋るような気持ちで、
ゆっくりと切り出す。
あなた

実は……