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朝のホームルームで私の転校のことが
先生の口から説明された。
完全に打ちひしがれ、
授業に集中できないまま、
放課後になり……。
私は顧問の先生に退部届を提出し、
メンバーにはなにも言わずに帰ろうとしていた。
下駄箱で靴に履き替えていたとき、
すぐそばでドンッと音がする。
顔を上げると、下駄箱に手をついて、
怒った顔でこちらを見ている烈歌くんがいた。
退部届はさっき提出してきたばかりだ。
なのに、話が回るのが早い。
息を詰まらせたあと、
なんとかそう口にする。
私は叫んで、その場から逃げ出す。
込み上げてくる涙を拭いもせずに、
私は家まで走った。
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あれから烈歌くんたちが代わる代わる
クラスまで会いに来たけど、
鉢合わせないように逃げる日々が続いた。
そしてやってきた、文化祭の日──。
お母さんと一緒に先生に挨拶をして、
職員室を出る。
お母さんが静かな場所を探して、
歩き出す。
そのあとをついていく途中、
聞き覚えのある音楽が聞こえて、
私は足を止めた。
胸の前で、ぎゅっと拳を握り締める。
遠ざかっていくお母さんの背中と、
音が聞こえてくる後ろを交互に見る。
それくらい、私の医者の道に進むという
決心は脆かった。
私は衝動的に駆け出した。
だんだんと、烈歌くんの歌が近くなる。
階段を駆け下りて、
体育館に飛び込むと──。
最初に作詞したものは、
【5つの色が奏でる音、
重なる心を抱きしめたら】だった。
これは私を除くバンドメンバー
みんなのことを表した。
私は裏方だから、みんなの音には
含まれないと思っていたのだ。
烈歌くんの歌を聞いていたら、
私の頬に涙が伝う。
そのとき、烈歌くんと目が合った気がした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。