つかさが指さしたのは、『竜宮城を荒らすクラーケン討伐』という高難易度クエスト。水中で海の怪物、クラーケンを倒すというものだった。魔法により水中で動けるようになるのだが、動きが遅くなる。そのせいでクリアできないのだろうと疾斗は思ったが、どうやら違うらしい。
つかさは赤面しつつうなだれ、クリアできない理由を話した。
ただでさえ難しいクエストにトラウマがあればクリアできないのも無理はない。
『Lv99』のモンスターには必ず身体のどこかに石のような核がある。その核を狙えば動きが止められ、核を完全に壊すことができればモンスターを倒せる。
つかさが大きな目を瞠って、キラキラした瞳を向けてくる。
華やかで存在感はあるが、真面目で大人しい存在だと思っていた。それが今は、妙に子どもっぽく、無邪気に疾斗を褒めてくる。
照れて赤くなりそうな顔を隠すように、疾斗はスマホに目を落とす。
高難易度の『竜宮城』のクエストをタップする。ここはエリアも狭く、近距離攻撃ができる武器でないとクリアが難しい。
疾斗の武器は『西洋剣』。モンスターに向かって指で画面をフリックすると、それが斬撃になってモンスターへのダメージとなる。スタンダードで扱いやすい武器だ。
つかさの武器は『弓矢』。近距離の西洋剣とは相性がいい。つかさもそれがわかっているのか、クエストが始まると遠距離から援護攻撃をしてくれている。
素直に感心しているのだと、そのキラキラした目が物語っている。
疾斗は使ったことがないが、弓は扱いが難しいと聞いている。放物線を描くように指をスワイプさせて的を狙わなければいけないからだ。
画面の中ではなく、つかさの手元を見ていたせいで、ゲームの中がおろそかになった。
クラーケンの攻撃を避け、疾斗の剣が最後の一撃をクラーケンの核に叩きつける。
パキンと核が割れ、クラーケンは動かなくなった。
声が重なり、思わず目が合う。つかさはおかしそうに噴き出し、その笑顔に疾斗は目を奪われてしまう。
子どものように喜ぶつかさに驚きつつ、疾斗は照れて顔を逸らす。
いつも派手な女子に囲まれて、ひかえめに笑っていた少女とは思えない。きっと本当にゲームが好きなのだろうとわかる、まばゆい表情。
楽しそうなつかさを見ていたら、不意にそんな言葉が口を衝いた。
活き活きしていた表情が、徐々に教室で見る、ひかえめな笑顔に戻っていく。しまったと思ったがもう遅い。
ぼっちの俺ならまだしも、という卑屈な言葉は飲みこんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!