つかさの横顔が、笑っているのにひどく泣きそうに見えて、疾斗は内心慌てた。
疾斗にも少しばかり覚えのある感情。上手く言えないが、ふとさみしくなる瞬間がある。さきほどこの屋上に来た時もそうだった。
膝に置いたスマホをすがるようにぎゅっと握り、つかさは小声で言った。
彼女のひかえめな笑顔の理由がわかった気がする。
友達に引かれるのが怖くて、仲がいいはずなのにさみしいのが後ろめたくて……心から笑えない。
何を言っていいかわからない。つかさも何も言わなかった。しかしそれでも不思議と居心地の悪さはなかった。
しばらく二人で沈黙していたが、不意に疾斗は口を開いた。
下手に誰かと関わって笑われたり、無理をしたり、突然距離を置かれるぐらいなら、最初から一人の方がいいと、傷つくことに怯えている。
そんな自分が嫌になるけれど、今さら自分を変えられない。
疾斗の言葉を聞いてから、つかさはゆっくりと首を振った。
横目でつかさを見ると、どこかホッとしたような表情をしていた。
えへへ、とゆるんだ顔で笑う彼女は、いつもよりずっと子どもっぽい。
つかさは決意を固めるように両手をぎゅっと握ってうなずいた。
少しでも彼女の力になるようなことが言えたのだろうか。そうだったら、嬉しい。
疾斗がそんなことを思っていると、つかさは両手を握って決意の表情をしたまま、疾斗を見つめてきた。
さっきからの疑問を、つい勢いで訊いてしまった。つかさは笑った。
……これは、OKしてしまっていいんだろうか。
一瞬疑ってしまったが、今のつかさはいつものようなひかえめな様子ではない。むしろ、気力を振り絞って疾斗に声をかけている気がした。
よく見れば、膝の上に置いた両手は、小さく震えている。
つかさに他意などあるはずもないのに、何だかこっちまで緊張してしまう。
疾斗がぎこちなくそう言うと、つかさは緊張していた表情を緩め、嬉しそうに笑った。疾斗には眩しすぎる笑顔に、思わず顔を逸らす。
顔を逸らしつつも彼女を一瞥すると、つかさは少し困ったように笑っていた。
つかさの両親は離婚し、苗字が変わったと誰かから聞いていたのに。そしてつかさの様子からすると、まだ日廻という苗字に納得していないようだ。
焦って頭がうまく働かない。口に出したのは──
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。