第12話

第一章 信じたくて信じられなくて-9
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2018/08/31 01:30
日廻つかさ
日廻つかさ
そうだと、いいけど……でも、怖いの。引かれて、一人になっちゃうのが
つかさの横顔が、笑っているのにひどく泣きそうに見えて、疾斗は内心慌てた。
日廻つかさ
日廻つかさ
……時々ね、みんなといてすごく楽しいのに、その分すごくさみしくなるの。友達のことは大好きなのに、変だよね……
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(それって……)
疾斗にも少しばかり覚えのある感情。上手く言えないが、ふとさみしくなる瞬間がある。さきほどこの屋上に来た時もそうだった。
膝に置いたスマホをすがるようにぎゅっと握り、つかさは小声で言った。
日廻つかさ
日廻つかさ
一人になったら、もっとさみしくなっちゃうかもしれない。それが、怖いの。……私はいつだって、一人になるのが怖いだけで、友達に好きなことも言えないの。……一人が怖いから、私は自分にも友達にも噓をついてるだけなのかも
彼女のひかえめな笑顔の理由がわかった気がする。
友達に引かれるのが怖くて、仲がいいはずなのにさみしいのが後ろめたくて……心から笑えない。
何を言っていいかわからない。つかさも何も言わなかった。しかしそれでも不思議と居心地の悪さはなかった。
しばらく二人で沈黙していたが、不意に疾斗は口を開いた。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
……俺は、好きなことを我慢するほうが無理。それなら一人でいいって思ってる。けど……好きなこと我慢してでも、友達大事にしてるあんたの方が、俺はすごいと思う
下手に誰かと関わって笑われたり、無理をしたり、突然距離を置かれるぐらいなら、最初から一人の方がいいと、傷つくことに怯えている。
そんな自分が嫌になるけれど、今さら自分を変えられない。
疾斗の言葉を聞いてから、つかさはゆっくりと首を振った。
日廻つかさ
日廻つかさ
ううん。私はすごくないよ。嬉野くんは、強いんだよ。ちゃんと自分が好きなことを好きって言えるんだもん。それって、すごく大事なことだよね
横目でつかさを見ると、どこかホッとしたような表情をしていた。
日廻つかさ
日廻つかさ
私は、ゲームが大好きで……だから今、嬉野くんに好きなゲームを好きだって言えて、引かないで強いって言ってもらえて、すごく嬉しかった
えへへ、とゆるんだ顔で笑う彼女は、いつもよりずっと子どもっぽい。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
……言ってみれば。ゲームが好きって。別にそこまでマイナーなゲームじゃないんだし
日廻つかさ
日廻つかさ
うん。勇気を出して、言ってみる。ありがとう、嬉野くん
つかさは決意を固めるように両手をぎゅっと握ってうなずいた。
少しでも彼女の力になるようなことが言えたのだろうか。そうだったら、嬉しい。

疾斗がそんなことを思っていると、つかさは両手を握って決意の表情をしたまま、疾斗を見つめてきた。
日廻つかさ
日廻つかさ
あの、それとね……また、一緒にやらない? あっ、い、嫌なら言ってね! 私、弓しか使えないから近距離は苦手で足手纏いかもしれないし……!
嬉野疾斗
嬉野疾斗
え……
日廻つかさ
日廻つかさ
あ、ごめん。そうだよね、嬉野くんも、忙し──
嬉野疾斗
嬉野疾斗
い、いや、ちがくて! てか、何で、俺? ほかにもやってる奴いるけど……?
さっきからの疑問を、つい勢いで訊いてしまった。つかさは笑った。
日廻つかさ
日廻つかさ
その……さっき、すごく楽しかったから
……これは、OKしてしまっていいんだろうか。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(もしかして、からかわれてるんじゃ……。いや、この人は完全にガチ勢だ、うん)
一瞬疑ってしまったが、今のつかさはいつものようなひかえめな様子ではない。むしろ、気力を振り絞って疾斗に声をかけている気がした。
よく見れば、膝の上に置いた両手は、小さく震えている。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(何で……俺相手にそんなに緊張するんだよ)
つかさに他意などあるはずもないのに、何だかこっちまで緊張してしまう。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
……いい、よ
疾斗がぎこちなくそう言うと、つかさは緊張していた表情を緩め、嬉しそうに笑った。疾斗には眩しすぎる笑顔に、思わず顔を逸らす。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
日廻……さん、すげえ強いし。俺は、遠距離苦手だから
顔を逸らしつつも彼女を一瞥すると、つかさは少し困ったように笑っていた。
日廻つかさ
日廻つかさ
つかさでいいよ。日廻って……なんか、言いにくいよね、色々
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(あああああ、俺のバカ……!)
つかさの両親は離婚し、苗字が変わったと誰かから聞いていたのに。そしてつかさの様子からすると、まだ日廻という苗字に納得していないようだ。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(どうしよう、地雷踏んだ……!? な、何か、話変えねえと……!)
焦って頭がうまく働かない。口に出したのは──

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