第3話

プロローグ 大事なもの
2,627
2018/08/01 01:46
正道護
正道護
疾斗! 面白いゲーム教えてもらった! 一緒にやろう!
そのゲームを勧めてきたのは、嬉野疾斗の幼なじみだった。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
……護。お前、ノックしろってば。──何だよ、スマホゲーム?
自分の部屋に向かってくる足音で、幼なじみの親友、正道護だとはわかっていた。疾斗は寝転がっていたベッドから起き上がり、興奮した護の顔を見上げる。
正道護
正道護
そう! 『Lv99』! 面白いんだよ! ファンタジー世界で勇者になってモンスターと戦ったり人助けしたり! 疾斗、絶対ハマるよ!
護が自分のスマホを疾斗に見せ、『Lv99』の画面を見せてくる。面白そうだ。さっそくアプリを見つけてインストールを開始する。
正道護
正道護
そうだ。どっちが先にレベル99になるか、競争しようよ!
にまっと笑う護に、疾斗は冷ややかに言葉を返す。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
別にいいけど、お前が俺にゲームで勝てるとは思えねえけどな
正道護
正道護
なっ……! こ、今回はちょっとだけ僕の方が早く進めてるんだから、絶対勝つよ!
護はぐっと拳を握って、キラキラした目で虚空を見上げた。
正道護
正道護
人々を救う勇者とか、正義の味方とかってさ、やっぱり男の憧れだよね!
嬉野疾斗
嬉野疾斗
お前はどうしてそう恥ずかしいことをさらっと言うかな……
正道護
正道護
心配しなくても、疾斗の前でしか言わないよ。僕、学校では真面目な優等生だし?
嬉野疾斗
嬉野疾斗
自分で言うな。ホントはただのゲーオタのくせに
冷たく言うと、護はどさっとベッドに倒れ込んで顔を覆った。
正道護
正道護
そうだよ……僕はただのゲーオタなのに何でみんなハードル上げるんだよ……!
高校に上がり、一年の一学期も終わろうとしている。顔も頭も性格もいい──改めて考えると腹が立つほど完璧な護は、男女問わずクラスの人気者になっていた。
うだうだ言っている護を蹴りながら、疾斗はインストールの終わったアプリをタップする。『Lv99』はまずは自分が操る勇者のアバターを作るようだ。さっそくアバターを作り始めた時、ふと護が疾斗を見つめてきた。そして。
正道護
正道護
疾斗ってさぁ……好きな子、いる?
嬉野疾斗
嬉野疾斗
は!? い……いきなり何だよ!? いるわけねえだろ!
護の言葉に、脳裏にふわふわした長い髪が浮かんだが、それを慌てて打ち消す。
あんなのは、高嶺の花。自分に釣り合うはずがない。
正道護
正道護
……そっか
護はぽつりと呟きつつ頷く。心なしかその耳が赤くなっていた。
疾斗の手からスマホが滑り落ちる。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
まっ、ま、まさかお前……!?
正道護
正道護
あ、あははははは……
乾いた笑い声を発しながら、護の顔がみるみる赤くなっていく。マジなやつだこれ。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
お前、か……彼女できたのか!?
疾斗の声に、護の顔から途端に赤みが引き、彼は膝を抱えてずーんと落ち込んだ。
正道護
正道護
彼女じゃなくて……ていうか、告白もしてなくて……
ホッとしたのもつかの間、護の顔を見て、疾斗はすぐにケッと言葉を吐き捨てた。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
どーせお前ならすぐOKしてもらえるっつの。滅びろ
正道護
正道護
わ、わかんないだろ! 僕は真剣に悩んでるんだけど!? 蹴るなってば!
昔から顔が良くて優しい護は女の子から大人気だった。告白された数も、疾斗が知っている範囲でさえ両手じゃ足りないぐらいだ。なのに、何を悩むというのか。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
チッ! 強くてニューゲーム状態のお前が何を悩むんだよクソが!
正道護
正道護
……死ぬほど口悪いけど、いちおうそれは慰めてくれてるんだよね……?
さすが幼なじみ。わかってしまったか。肯定も否定もせず、疾斗はアバター制作に戻る。その間も、護の嬉しそうな声が聞こえてきた。
正道護
正道護
……何かさ、守ってあげたくなったんだ。彼女が弱いとかじゃなくて、こう、大切にしたいっていうか。誰かに対してこんな風に思ったの、初めてだなって
嬉野疾斗
嬉野疾斗
あ、そういうのいいです。聞いてるだけで恥ずかしいんで
正道護
正道護
聞いてよ! こんなこと疾斗にしか言えないんだってば!
疾斗の気のない返事に、護は不満そうだったが、聞いてるこっちが恥ずかしい。
きっとそれだけ護に想われているなら、相手も大切にされていることを感じ取っているに違いない。そして護は、間違いなくその子を幸せにできる奴だ。
絶対に言ってやらないけど、疾斗の自慢の親友なんだから。
ちょっとムカつくけど、彼女ができた暁には、ちゃんと祝ってやろう。
ふと、不安とともにふわふわの髪が疾斗の脳裏に蘇る。
ないと思いたい。でも、もしも彼女だったら……疾斗に勝ち目などあるはずがない。いや、別に、そういうのじゃないけど。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
ち、ちなみに相手って……誰?
疾斗が恐る恐る尋ねると、護はその娘の名前を口にすることすら恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔をした。こんな護の顔を見るのは初めてだった。
幸せそうな笑顔の護に、何だか疾斗まで嬉しくなってしまう。










正道護
正道護
■■■■だよ

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