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第3話

大好きだよ、お兄ちゃん!
304
2019/06/15 09:01
【教室】
こはる
こはる
(う〜〜ん)
こはる
こはる
(うう〜〜ん……)
授業も上の空に、私は悩んでいた。

窓の外では、桜がはらはらと散っている。
こはる
こはる
(お兄ちゃん、私が
マルコだって気づいてて
言ったのかな)
こはる
こはる
(私をマルコって呼びたい、
だなんて……)
マルコと呼ばれること自体は
構わないけれど……
これは結局、犬としてしか見られていない
ということなのか、

それとも。
結婚の約束をした相手として見てくれている、
ということになるのだろうか。
こはる
こはる
(悩んでても答えは
出ないかな)
こはる
こはる
(今日はやっと、待ちに待った
16歳の誕生日——)
こはる
こはる
(家に帰ったら予定通り、
告白するんだ……!)
*****

【自宅】
こはる
こはる
ただいま!
こはる
こはる
(あ、お兄ちゃんの
靴がある)
こはる
こはる
(それにもう一足……
女の人の靴?)
こはるの母
あら、おかえりこはる
こはるの母
今ね、
お客さんいらっしゃってるのよ
こはるの母
部屋に行っててね
こはる
こはる
わかった。
ねぇ、誰なの?
こはるの母
祐一郎さんの婚約者の方よ
こはる
こはる
……
こはる
こはる
……は?
*****

【こはるの部屋】
バタン。
私は自室のドアを閉めるなり、
その場でへたり込んだ。
こはる
こはる
(婚……約者……)
こはる
こはる
(そりゃ、お兄ちゃんだって
25だもん、結婚を考えるかも
しれないけど)
こはる
こはる
(そんなのってないよぉ
……!!)
思考がぐちゃぐちゃになって、私は
涙を流し、しゃくり上げた。
こはる
こはる
(マルコのことを大切に思って
くれてるのは嬉しかったけど)
こはる
こはる
(それでもやっぱり、
私はただの犬……
ペットなんだ)
こはる
こはる
(高望みなんてしちゃ、
いけなかったんだ……)
こはる
こはる
うう……っ、
ひっく、うぇえ……
私はなるべく大きな声をあげないように
気をつけ、だけどどうしても漏れてしまう
泣き声を止められずに、

ドアに背を預けたまま嗚咽した……。



——

——……
————……
佑一郎
佑一郎
……る、
佑一郎
佑一郎
こはる!
こはる
こはる
んん……
こはる
こはる
おにい、ちゃん……?
佑一郎
佑一郎
こはる、こんなところで
寝たら、風邪引くぞ
佑一郎
佑一郎
ああ、手が冷たく
なってる……
こはる
こはる
お兄ちゃ……ひゃ
お兄ちゃんは迷い無く私を抱きかかえ、
立ち上がった。

そして、ベッドへと向かう。
こはる
こはる
(あったかい……お兄ちゃん)
ベッドに押しこまれ、布団をかけられそうになる。
こはる
こはる
いや!
佑一郎
佑一郎
こはる?
こはる
こはる
お兄ちゃんのほうが
あったかいもん!
私はお兄ちゃんにぎゅっとしがみついた。
佑一郎
佑一郎
こはる……
お兄ちゃんはふぅとため息をついて。
佑一郎
佑一郎
……仕方ないな
お兄ちゃんは再び私を抱きかかえると、そのまま
ベッドの横に座り込んだ。
佑一郎
佑一郎
これでいいか?
こはる
お兄ちゃんの長い腕で、すっぽりと包み込まれる。

マルコのときに、抱っこしてもらったみたいに。
こはる
こはる
こはるじゃないもん……
こはる
こはる
マルコって呼ぶって、
お兄ちゃん言ったじゃん
佑一郎
佑一郎
……ごめん、あの時はこはるが
マルコのことを聞いてくれて
嬉しくて……つい
佑一郎
佑一郎
でも、こはるは女の子
だから……
佑一郎
佑一郎
やっぱりよくないよね
こはる
こはる
……
私はきゅっとくちびるを噛み締める。
こはる
こはる
マルコだもん……
こはる
こはる
(私はお兄ちゃんの
恋人にはしてもらえない)
こはる
こはる
(だったら、人間の女の子に
なった意味がないよ)
こはる
こはる
(犬なら——
マルコなら、お兄ちゃんが
結婚したって)
こはる
こはる
(お嫁さんとは別の、
大切な存在のままで
いられる——)
佑一郎
佑一郎
こはる、今日来てた人は
お見合いの相手で、
佑一郎
佑一郎
婚約者じゃないよ
こはる
こはる
……、
でも、結婚するんでしょ?
佑一郎
佑一郎
しない。
どうしても断り切れなくて
お見合いしたんだけど、
佑一郎
佑一郎
まさかここに押しかけて
くるなんて……
佑一郎
佑一郎
叔父さんと叔母さんに
迷惑をかけてしまった
こはる
こはる
……そう
佑一郎
佑一郎
ごめんね、こはる
こはる
こはる
どうして私に謝るの?
佑一郎
佑一郎
それは……
佑一郎
佑一郎
こはるが好きだからだよ
こはる
こはる
……っ
こはる
こはる
マルコだから、だよね
佑一郎
佑一郎
違う
佑一郎
佑一郎
ううん……
そうかもしれない、でも
佑一郎
佑一郎
こはるのことを、
女の子として好きなんだ
こはる
こはる
……
こはる
こはる
嘘……
佑一郎
佑一郎
嘘じゃないよ
こはる
こはる
嘘だよ、だって私……
こはる
こはる
本当に、マルコなんだもん!!
——ついに言ってしまった。

お兄ちゃんは、叫んだ私の背を
なだめるように撫でて。
佑一郎
佑一郎
……やっぱり、そうなんだね
こはる
こはる
……私
こはる
こはる
こはるに生まれ変わって、
今度こそお兄ちゃんと結婚
するんだって……
こはる
こはる
ずっと待ってた。
16歳になったら、告白
しようって
こはる
こはる
もちろん、16歳じゃ
まだ結婚はできないけど
こはる
こはる
マルコのときにした約束を
いつか果たそうって……
佑一郎
佑一郎
うん
こはる
こはる
でも、犬なんだよ?
こはる
こはる
お兄ちゃんは、本当に
私のこと……
佑一郎
佑一郎
うん、好きだよ
佑一郎
佑一郎
僕もマルコだから好きなのか、
こはるが好きなのか……
悩んだけど
佑一郎
佑一郎
でも、マルコには
思わないことを、
佑一郎
佑一郎
こはるには思うんだ
こはる
こはる
なに?
お兄ちゃんが、そっと私の頬を両手で包んで、
顔を上向かせる。
佑一郎
佑一郎
キス……したいって
こはる
こはる
!!
佑一郎
佑一郎
キスしてもいい?
佑一郎
佑一郎
……こはる
こはる
こはる
お兄ちゃん
お兄ちゃんの黒い瞳がどんどん近づいてくる——

私は目を見開いたまま、動くこともできずにいた。
こはる
こはる
……っ
やわらかいくちびるが重なって、そして。
——しばらくして離れる。
佑一郎
佑一郎
好きだよ、こはる
こはる
こはる
お兄ちゃん……
佑一郎
佑一郎
こはるがマルコじゃなくても、
好きになってた
佑一郎
佑一郎
でも、マルコだからきっと、
ずっと大好きだったんだ
佑一郎
佑一郎
僕の恋人になって欲しい
佑一郎
佑一郎
こはる……
お兄ちゃんが、やさしい瞳で告げる。
私は——
こはる
こはる
……うん、お兄ちゃん
私はようやく微笑んで、それから。

両腕を伸ばして、お兄ちゃんの首に抱きついた。
そんな私の背中にお兄ちゃんも腕を回し、
あやすように撫でてくれる。
——ふたたび離れて、見つめ合ったとき。
佑一郎
佑一郎
16歳の誕生日おめでとう、
……こはる
こはる
こはる
ありがとう、
お兄ちゃん……
私たちは、どちらからともなくくちびるを合わせて、

二度目のキスをしたのだった。



【完】

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