【ファミレス】
その夜は、私の入学祝いで
家族でファミレスへ外食に出かけた。
もちろんお兄ちゃんも一緒だ。
私はぎくりとして、慌てて口元を拭った。
パパがメニュー表を指さす。
私は慌てて声をあげた。
*****
【こはるの部屋】
ファミレスから帰宅した私は、
自室のベッドに倒れ込んだ。
まだ口の中が酸っぱい気がする。
マルコのときから、梅干しは
大の苦手なのだ。
その時。
軽くノック音がしたのち、
お兄ちゃんが声をかけてきた。
体を起こした私を、お兄ちゃんが
心配そうに見つめてくる。
お兄ちゃんは何かの袋を差し出す。
私はお兄ちゃんから受け取った袋を開け、
早速チーズを頬張った。
桜チップの香りの、スモークチーズだ。
どう答えていいものかわからず、
私は沈黙した。
お兄ちゃんになら、前世がマルコだって
知られてもいいけど……
前の飼い主に飼育放棄されて
育ったマルコは、
お兄ちゃんの家に引き取られて
二年後に、病気で死んだ。
お兄ちゃん――佑一郎と一緒に
過ごせた期間はけして長くはないけど、
それまでの辛い日々を
補って余りあるほどに、
マルコは佑一郎と幸せに暮らしたのだ。
お兄ちゃんが腕を伸ばす。
そして私の肩に手を置いて、
そっと引き寄せた。
私は目を瞑って、お兄ちゃんの肩に
おでこを預ける。
思わず声を上げてしまう。
そんな私を見て、お兄ちゃんは
悲しげに眉根を寄せた。
私はそのとき、たぶん無意識
だったんだと思う。
とにかくぶんぶんと、
すごい勢いで首を振って、否定した。
そして。
ひと声、吠えたのだ。
お兄ちゃんは驚いたように
目を見開いてから、
やがて満面に笑みを浮かべる。
お兄ちゃんが大きく腕を開いて、
私はそのまま抱きしめられてしまう。
生まれ変わった人生でも、
私はお兄ちゃんのワンコなのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。