中学の時に仲の良かったメンツはほぼこの高校にもいた。
男子だけじゃなくて女子も。
だけどやっぱ、新しく来る子も気になるわけで…。
隣の席の天月さんとか坂田さんは聞いたことない名前だし、
釘宮さんも知らない。
想像するだけで胸がドキドキと音を立てる。
右隣の席に人が座った。
綺麗な顔立ちで、どこかマイペースそうな感じがした。
天月くんが椅子に腰掛けたのと同時に、別のハイテンションな男の子が首に腕を回し少しよろめく。
山田の話題提供に、周りにいる奴ら全員が食いついた。
話がピークまで持っていかれた時、何かに惹かれるように後手のドアを見た。
すると、そこには困り顔の女の子が両手を胸元で不安げに当てて立っていた。
遠くからでも分かるぱっちりとした黒い瞳に、薄くてぴんと形のいい唇。
肩下までの黒い髪はふわっとサラっと垂れている。
……って、どんだけ分析してんだ、俺は。
女の子が未だに困り顔でいるのを見て、俺は察した。
この子が坂田さんだ。
てことは、こいつらが邪魔で…
そういうと渋々全員席に着いた。
坂田さんと視線が合って、何気なく頷くと、
私?とでもいうように、小さく人差し指で自分を指した。
ふと、可愛いなと思った。
坂田さんは微笑んだ。
それは、よくこんな微笑みが出来るよなあと感心するほど輝いてみえた。
1時間目の委員会決めでは、誰よりも早く手を挙げていて、その後何もなかったかのように振舞っていたけど、
頬や耳は赤く染まっていた。
どうせ、男子は誰も手を挙げないだろう、そう思って俺は自ら立候補した。
ん?俺ってこんな優しかったっけ?
いや、優しいか。←
☆☆
放課後、早速委員会の集まりがあって、2年A組へ集まることになった。
目の先にその先輩を見つけたらしく、顔がパァと明るくなったが、「あっ」と小さく声を漏らすと流し目でこちらを見て頷いた。
先輩は、かなりのイケメンだった。
〜〜
教室に入り、しばらくしてチャイムが鳴ると号令がかかった。
驚いたことに、総務委員長の峰岡舞香は、幼・小・中学の時に一緒だった女友達(峰岡葵)の姉だった。
舞香じゃん。
葵は、専門学校に行ったから、高校では離れたけど。
坂田さんは委員長の話を真面目に聞いていた。
……なんだろ、朝から思ってたけど、
坂田さんってどこか人を惹きつけるオーラがあるよね。
見たい目は言ったら悪いけど、そこまで華やかじゃない。
可愛い子、くらいで。
でも、気を緩めたらすぐに坂田さんを視界に入れてしまうような…、
なんというか…。
〜〜
気がつけば、終礼がかかっていた。
かなり考え込んでいたようだ。
やっべ、なんもしてねぇ。初日からやっちまったなぁ……。
リュックを背負って、下駄箱まで向かう。
校門の前に来て、何かを思い出したように坂田さんは立ち止まった。
感心のような眼差しを向けられて驚く。
いや、それだけじゃない。
俺の耳と記憶が正常なら、正しければ、坂田さんは俺のことを有岡さんと呼んでいた。
それから、敬語だった気がする。
え、待って。無自覚怖くね?
俺さ、そんなこといつ言ったの?
まさか二重人格!?
……医者に診てもらお。
口元に手を当てクスリと綺麗に笑う。
朝とは別の微笑みで、今のは背筋がすっと伸ばされるような…。
なんなんだ、坂田さんって…。
その時、後ろから突然誰かの腕が回ってきて、小さく叫んだ坂田さんと俺の間に割って入った。
小さく手を振り返して、帰宅路をゆっくり歩いてく。
……はぁ。今日は何かと変な日だったな。
まるで自分が自分じゃないような…。
ま、新しい環境だから仕方ないか。
そのうち慣れる慣れる。
何となく、どこか自分に言い聞かせているようなきがした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。