第11話

最強とは
1,325
2020/06/05 08:21
「あったかぁい…」

「ほんまやなぁ…」

『…ムスッ』




数時間前

結局ツム兄とサム兄と寝る羽目になり,烏野の皆さんや北さん達に迷惑をかけながら

2人に挟まれて寝ています…

いや寝れるかよ,この状況で。

家じゃないよ,合宿地だよ。

皆いるよ,バカツムサム…



「サム,あなたとくっつき過ぎや。離れな」

「知らんわそんなん」

「知らんとちゃうやろ,離れな」

「自分かて近付き過ぎやろ」

「なんやとこのアホサム!」

「間違った事言うてないやろボケツム!」




「また喧嘩…」

「どうします,北さん?」

「俺じゃ止められん。あなたちゃんに任せる,俺は疲れた」

「北さんが疲れた…⁉︎」





「「ギャーギャー」」

『うるさい』

「「ギクッ」」

『出てくよ?』

「「もううるさくしません…」」

『はい。』




「…なぁあなた」

『ん?』

「泣く時はちゃんと言うてや?」

『⁉︎』

「1人で抱え込まんといてな?俺らあなたの1番の理解者になりたいねん」

「1人はやめてな?」

『…うん』

「「約束やで」」

『うん…うん…!』

「泣いてもえぇで。両方に俺らおるから,怖いもんない」

「見られたくなかったら布団の中でもえぇ」

『…ヒグッ…』

「大丈夫や」

「そばにおる」



宮兄妹は布団の中で何かを話していて,ほんのかすかに声を殺しながら泣く声が聞こえた。

俺らはそれから明日のチーム分けをした。

稲荷崎の人達も主将の北さんを起こして作戦会議をした。

宮兄妹は…北さんが気を利かせ,



「あなたちゃんの為や,チームと配置は明日見せる。お前らなら明日でもちゃんと覚えられるやろ。このまま寝てえぇ。あなたちゃんから離れたらあかんで」


と言っていた。


「ありがとございます。んでも,これでは離れられへんと思いますけどなぁ…」

「トイレどないしよ?」

「考えるだけ無駄や」

「そうやな」



あなたは俺達の手を握りしめて寝落ちした。

何があったのかは聞かない。

それこそ,あなたを追い詰める原因になっていると思ったから

サムはあなたの方へ更に身を寄せ,気持ち良さそうに寝た。

俺も体を動かし,握られている手のもう一つの方の手をあなたとサムまで回して包むようにして寝た。




「北さん,3人とも寝ました」

「そうか」

「ほんま世界一幸せな兄妹や」

「おう」










私が泣いてしまった理由

それは1ヶ月の部活中での事…


_______________________



「全員集合!」

「「「はーい」」」




「来年の春の試合,勝てば更に大会に出場する事が可能や。でも負ければ3年は引退」

「3年の最後の大会,2年1年は勝てるようにサポートや。皆,最後はえぇ結果残したいやろ?」

「「はい!」」

「やるのは皆や。私らが言う事ない」

「分かってます,自分達で考える事こそチームなので!」

「よし,後…2年」

「「「はい」」」

「急で悪いけど,2年の倉田と酒井,牧野と真田は退部する」

「「「え…えぇ⁉︎」」」

「ごめんな,皆」

『なんでですか⁉︎』

「ま,理由は人それぞれやけど…前話した烏野との試合でこのチームとの試合は終わりや。甲斐ないように勝つんやで!」

「「「はいっ!」」」







「ごめんな皆…」

「一体何が…?」

「引っ越しで長野へ行くんや」

「私は親の仕事の関係で1年間だけ東京暮らしや」

「うちはお兄ちゃんの家に通いこまなあかんから部活の時間がなくてな…」

「私は親の理由でな…」

「皆理由あるんやね〜」

「どうするんよ?3年は終わり,2年全員退部やったら,もう私らしかおらんよ…」

「それなんやけど,3年生と話して1年が2年になった時,キャプテンをあなたにしようと思てんねん」

『え?』

「あなた?」

「うち1の実力者,キャプテン以上にこのチームを良くしてくれて,今では男子に並ぶ1番の女バレチームや。キャプテンの私からしたらあなたはキャプテンにふさわしい」

「…私もそう思うで」

「私も賛成や」

「うん,私も」

『ちょ,ちょっと待ちぃ‼︎』

「?」

『私がキャプテンすんの⁉︎1番⁉︎』

「そうや」

『私には出来ん!』

「なんでや?」

「あなたはこの1年で稲荷崎を変えてくれた天才や。ものすごいエースやよ?」

『そのエースやから出来んの!』

「?」

『私は…エースやけど,"これ"がないとなんも出来へんのやよ?』

「それは…」



これ,とは

この青いリストバンド

これは私の通称名,"青い女王蜂"の名前が付いた理由の1つ。

私はこれがないと試合が出来ない。

夏の大会でうっかりリストバンドを忘れてしまった時,そのまま試合に出て最初のサーブを打った時アウトをしてしまった。

私にはあり得ない事で,どうしても信じられず

動揺してしまっていた。

それから私は5点分をロスしてしまい,ウィングスパイカーの交代となってしまった。

『やっぱり無いと出来なんかな…』

その時,

「あなた!」

『!』

上の客席にツム兄がいた。

『な,なんでおんねん⁉︎』

「お前が今出来へんの,リストバンドがないからやろ⁉︎」

『⁉︎』

「やっぱりな…ちょっと待っとれよ!」

『何を⁉︎』


私の質問に答える事はなく,そのまま行ってしまった。


『なんやねん…』

ピーッ!

『!』


 有野 稲荷崎 
  19 13


『マズい…』


先に20点に入られたくないのはお互い様。

どうしよう…



「「あなた‼︎」」

『⁉︎』


また客席から声がして見てみると,そこにはツム兄とさっきはいなかったサム兄がいた。


『何してるんよ⁉︎』

「これ!」

『それは_』


私の,リストバンド…


サム兄が少し息切れてる様に見えた


「ほれ!」

『ッ!』ポス

「ナイスキャッチ…!」


ツム兄…サム兄…


『ありがとう!』

「「おう!」」





私はこれがないと,なんも出来へん。

エースでもない。

でも有れば…


ピーッ!


「交代?」

「7番…やっとか」

「エース8番,交代。」



「やっと戻った?」

『戻ったで』

「ふふっ,後は頼んだで。エース」

『任せとき』



5点,いやそれ以上に点数稼いだる‼︎




「マズい…8番エース交代でサーブからか…」

「どう来るかやな…」



『まずは…右かな…』




「お疲れ,サム」

「会場近くてよかったわ」

「ほれ,ジュース」

「おーきに」

「…あなたは,何がしたいんやろな」

「え?」






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