第23話

マネージャー
921
2020/08/01 02:12
烏野の合宿があってから6ヶ月後。

北さん達は高校を卒業し,ツム兄達は3年

私も2年になり,稲荷崎の女バレのキャプテン。

背中に1番が掲げてあるのはやっぱり重い気もする。

でも丁度良い重さ。



『…よし。』



私は気合を入れて,青いリストバンドを着ける。



『やったんで』











一方その頃…



「皆ー,もうすぐコーチ来んでー」

「「「あいよー」」」


男子の方では,今から午前練。

時間通りに始められるように,自分の荷物をまとめている。



「よし,ほなやるでー!」



その時だった。



「あのー,すみません」



体育館の扉から顔を覗かせた女の子。

誰や,あの子



「どないかしたん?」

「私,1年の橘花沙羅と言います。この稲荷崎の男子バレー部のマネージャーをさせてください!」

「「「…。」」」



流石に覚悟はしていた。

毎年,こうやってマネージャーさせてくれって言いに来る女の子がおる。

でも,うちはマネージャーは雇わん事になっとる。

それで虐めが起きたりするから。



「ごめんな,うちは_」



言いかけた時。



『こら,サム兄ー‼︎』



「「「⁉︎」」」



あなたが体育館に入って来た。



『弁当の箸,忘れてったやろ!』

「あ,ごめん」

『オカンはまだ気づいとらん。こそっと持って来たったで』

「ありがとう,あなた!」



「あのー…あなた…話進めてえぇかー…?」

『ん?』

「やから…」

『あぁ。またマネージャーなりたいって来たん?』

「"また"って何ですか?」

『毎年来るんよ。男子バレー部のマネージャーなりたいって来る女子が』

「そうですか」


するとクルッと向きを変え,


「先輩,お願いです。させて下さい!」

「悪いな,それは無理や」

「どうしてですか?」

「何回か,バレー部のマネージャーやった人が虐めにあった事もあってな。俺らは雇わん事になっとる」

「虐めとかなら,大丈夫です!」

「いやでも…」


その頃あなたは…


『…。』


俺らが用意したプロテインを見ている。


「おい,あなた」

『何,サム兄』

「何しとるん?」

『…………やっぱりな』

「?」

『プロテインが人数と数が違う』

「え?1.2.3.4…あ,本当や」

『もう…』




「お願いします!」

「ごめんな_」

ツンツン

「ん?」

『プロテイン1個少なかったで,増やしといたよ』

「マジ…サンキュ!助かった!」

『うん!』



「あの,貴方誰ですか」

『私?』

「さっきからずっとここにいて,目障りなんですよ」



は,目障り?

この女何言うてんねん。



『おー,目障りかぁ。少なくとも,私を目障りやて思とる人はあんただけやと思うけど?』

「…。」



当たり前や。

誰1人としてそんな事思う奴はおらんやろ



『私は宮あなた。ここにおる宮ツインズの妹や』

「妹…」

『稲荷崎女子バレー部キャプテン。通称"青い女王蜂"』

「⁉︎」

『どうも』

「あの"青い女王蜂"⁉︎」

『そやよ』

「嘘よ!」

『こんな事に嘘付いてどうするんよ?』

「ッ…」



「沙羅ちゃんやったっけ?」



「あ,はい!」

「やっぱり,うちはマネージャーはいらんわ」

「ッ…虐めとか私には関係ないですよ」

「そうじゃなくてなぁ…」


俺らは全員で女を睨んだ。

当たり前や。

あなたに目障りなんて言うたやつが,うちのマネージャーやれる訳ないやろ。



『まぁえぇやん』

「!」

「あなた?」

『やらせたらいいやん。そしたらマネージャーの仕事がどんだけ辛いか分かるやろ』

「…。」

『後悔して終わりや』

「あんたに決められる筋は_」


こいつ,あなたに手挙げやがった!

いい加減に…!


パシッ


『私を簡単に殴れるとでも思とるんか?』

「!」

『喧嘩なら負けへんよ』

「…大体,女バレのキャプテンが,マネージャーの辛さなんて分かるの⁉︎」

『分かるよ。私は前々からここのマネージャーみたいな事しとった。朝の4時半に家を出て,5時に干しとったビブスを畳んで,たった10分で30本のプロテインを作る。テーピングの在庫,窓開け,練習のプログラム確認…細かな所まで全てやる。』

「…」

『私は全部やりながら,自分のチームを高校女子バレー界1位まで昇り上げた。私はあんたに負ける自信はない。私に歯向かうんやったら,私とおんなじ事してから来な。そしたらいつでも相手したる。』

「…この女…」

『一応先輩やでー』



「先輩!お願いします!」



「帰れ」

「え…」

「あなたには口も手も挙げて,俺らには声も口調も変えやがって。気持ち悪いねん,そう言う女」

「もしあんたが男なら,女の子1人大事に出来ひんくて,情けないわ」

「それと,これはチームじゃなくて,"俺達"からの気持ちやけど…」

「「あなたに手挙げるやつは,誰1人として許さん」」

「私…本気で先輩の事…」

「知るか,嫌いやお前」


泣きながら走っていった。

あれも当然泣き真似…

最後の最後までクズや。



「大丈夫か,あなた?」

『いや〜,女の子って怖いなぁ〜』


あなたはケラケラ笑っていた。


『ほな,私は本当に部活前にサム兄の箸届けに来ただけなんで,じゃあな!』




「あなた,かっけぇなぁ…」



どこまでもカッコいい女の子でした。






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