第9話

9. 君はヒーロー
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2021/05/08 04:00
二科 未央
二科 未央
…瀬奈? どうしてここに……
しまった。
つい足が動いてしまった、と言うべきか。私だけでなく彼方くんまでを馬鹿にされた勢いで教室に足を踏み入れてしまった私だったが、未央と目が合い何も言えずまごついてしまう。
そんな私を腰抜けとでも思ったのか、先程の女子の1人がくすっと笑う声が教室に響いた。
クラスメイト
何よ、急に入ってきて。正義のヒーローでも気取ってるのかしら?
クラスメイト
そうよそうよ、あんたは未央の親友の癖して彼方くんを奪ったんでしょ? 陰口くらい言われて当然じゃない。
それに数人が加勢するように発した言葉で、私は奥歯をぐっと噛み締めた。
私が悪い。未央のこと、親友だった筈なのに。何も分かってあげられなかった。私が彼方くんに呼び出された時、あの子はどんな気持ちだったんだろう。彼方くんと友達になってから未央と話すことが少なくなって、今の私のような疎外感を感じていたのかもしれない。
それでもずっと、何一つ私を責めること無く、私が話してくれるのを待っていてくれたんだろう。未央は優しい子だ。そんな優しい子に我慢させた私は、私は__
私と彼方くんが夜中に一緒にいるのを見て、どう思ったんだろう。
……私には未央を責める資格なんて。
クラスメイト
未央に謝りなさいよ、瀬奈。
クラスメイト
あんたが悪いんだから裏切られたとか思ってるんじゃないわよ。
クラスメイト
むしろ裏切られたのは未央の方よね〜?
私を囲うようににやにやと意地の悪い笑みを浮かべる女子たち。
中心に立つ未央は怒るでも悲しむでもなく、ただ寂しそうな表情で私をじっと見つめ、ゆっくり近寄ってきた。
二科 未央
二科 未央
瀬奈。私、瀬奈のこと大事な親友だと思ってたよ。
三崎 瀬奈
三崎 瀬奈
…私もそうだよ、未央。
二科 未央
二科 未央
…嘘! じゃあなんで彼方くんとのこと私に教えてくれなかったのよ!
未央が声を荒げる。
…未央がこんなに怒る様を見たことが無かった。私は親友なのに、彼女のことを何も知らなかった。

ごめん、とだけ告げ俯くと未央も少し気持ちが落ち着いたのか深呼吸をし、私を真っ直ぐ見据える。
二科 未央
二科 未央
私が怒ってるのは、瀬奈が何も話してくれなかったからだよ。瀬奈が私に遠慮するくらいなら、私はいつだって彼方くんのことを諦める準備は出来てた。……瀬奈は世界一大事な友達だったから。
二科 未央
二科 未央
でも瀬奈は違ったんだね。だったら……彼方くんにはもう近づかないで。瀬奈だけが幸せになるのを笑顔で見ていられるほど私は性格が良くないの……
未央の声に段々と嗚咽が混じっていき、その頬に透明な涙が伝う。

未央の望みを飲むのは簡単だ。
でも、そうしたら私は彼方くんとの関係性を諦めないといけない。彼方くんにせっかくもらった幸せと、優しさをまだ返せていないのに。
潤んだ視界を拭い、きっと前を向いた。
三崎 瀬奈
三崎 瀬奈
ごめんなさい、ずっと隠してて。……でも彼方くんと離れることは出来ない。
三崎 瀬奈
三崎 瀬奈
未央のことも大切だけど、彼方くんも私にとってはもう大切な人なの。
ヘタレで、コミュ障で、そのくせ学校ではクールぶってて。価値観が全く合わなくて、時々傲慢で偉そうで。

でも、本当は誰より優しくて繊細な人だってことを知ってしまったんだ。
クラスメイト
なっ……あんたふざけないでよ!
すぐ脇にいた女子の1人が私に詰め寄ってきた。
手を振りかぶり、真っ直ぐ私の頬へと振り落とそうとしているのが分かる。
この痛みを受けることで私が許されるなら__ぎゅっと目を瞑る。

けれどいつまで経っても私の頬に痛みがやって来ることは無かった。

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