人と人が殴り合う瞬間など、目の前で見たことがない。
見たくなんて、なかった。
それでもジョンハン達の事情を聞いてしまった私は、きっと止めるべきなのにそれさえ出来なくて。
どちらにも傷ついて欲しくない、なんて綺麗事に過ぎないんだろうか。目の前の出来事をとめることも出来ず、ただ見ているしかできない私は、なんて滑稽なんだろう。
バタン!と大きく音を立てて開いたこの部屋の扉。
顔を見せたのは、生徒会の面々。
・・・1つ、確かなことがある。
それは、彼らが身体に傷をつけているのは、"私のせい"だということ。私が平穏にこの部屋でジョンハンと過ごしている間、彼らは必死の形相で私を助けようとしてくれたのだ。
傷つくことも、厭わずに。
それでも、心なしか楽しそうに見えるジョンハン。
罪悪感ばかりが、だんだんと募る。
実感がなかったんだ。人が傷つけあうことの。
私はきっと真綿に包まれたような生活しかしてきていない。
『トップになりたい』といったジョンハンの言葉が、今更になってこんなにも苦しい。
目の前の人の抱える"理由"なんて、考えもしなかった。
深く関わって来なかった5人の身体に傷がついてしまったことがどうしても痛い。
助けに来てくれなんて、思わなかったの。
私のこと、"助けよう"と思ってくれるなんて、想像もしていなかった。
結局私は、いつまで経っても自分のことだけで。
周囲の気持ちなんて考えようともしていなかった。
眉を寄せて、ジョンハンが片膝をつく。
あぁ、テヒョンが勝ったのか、と。呆然と思った。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。