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第1話

第1章 ~
2,088
2021/08/01 17:24
「あなたー!」



電話の向こう側から元気で少しカタコトの日本語で私を呼ぶ声がした


『あなたじゃなくてあなたヌナって呼んで欲しいんだけど?』

私は呆れるように笑う



「だってあなたって呼びたいんだもん。それにあなたってヌナっぽくないですし!」



『ちょっとそれどういうこと〜!?』






ここ最近の私の交友関係がガラリと変わった


仕事を終えて電車の中でスマホを見ると
メッセージが届いている

男友だちからだ

家について食事の準備をしていると電話が鳴る
電話の相手は今日の出来事を話してくれたり、聞いてくれたりする

そんな相手が今をときめくスーパースターなんて
誰が想像できるだろうか


この関係が始まったのはつい最近

私は東京でデザインの仕事をしながら一人暮らしをする28歳


仕事は楽しいし、趣味も多いし、友達も割と多い

しかし残念ながら、彼氏はいない

仕事ばっかり頑張って自分の時間を大切にしていたら
彼氏を作る努力さえしていなかった



そんな私は大学生の時にK-POPをよく聴いていた


現在も韓国美容に興味があったり、韓国料理は大好物

私にとって韓国はすごく身近な存在だった



あの日はちょっとした食事会帰り

素敵な出会いもなく早めの解散になってしまい
お酒が飲み足りない状態で新大久保に立ち寄ったのだ


何回か行って仲良くなった店員さんがいるBARに顔を出した



地下に降りてドアを開ける前に透明のドアから中の様子を見る



今日はなんかいつもと様子が違う感じ

少しだけ扉を開くと何人かがこちらに気づく
お客さんが男の人ばかりだ



「あ!あなた!」

私に気づいた店員のソンジュンがこちらに駆け寄る



『久しぶり!今日貸し切り?』

私はドアの間から顔を出して問う


ソンジュンオッパ

優しくていつも私の話を聞いてくれるお兄さん

相変わらず肌が綺麗だな


「あなたー!!そうなんだよー。申し訳ない。せっかく顔出してくれたのに…」

ソンジュンはすごく残念そうな顔をしてくれる



『全然大丈夫!また来るね』

私はそう言ってドアを閉めようとしたとき





「待っテクダサイ!」

一人の男性が近づいてカタコトの日本語で止めてきた



そこにいたのは
凄く綺麗な韓国人の男の子だった




「せっかく来てくれてるのに帰すのは可哀そうですよ」

男の子は韓国語でソンジュンに話す


私は勉強をしっかりしてたわけではないが
環境と好きが重なって気づけば少し韓国語が話せるようになっていた


『いや、大丈夫です!飲んだ帰りにふらっと寄っただけなので』


私は慌てて韓国語で彼に言う


「あれ?韓国語話せるんですか?」



男の子は驚いた顔を見せた


本当に綺麗な顔してるな…

何者…??



『えっと、ほんの少しだけ…』

男の子はニコっと笑うとソンジュンの方を向く


「ヒョン、せっかく来てくれたんだし迎え入れるべきだよ。貸し切りだけど一人ぐらい問題ないです。俺がマネージャーに話してくる」

男の子はそういうと奥にいた
そのマネージャー?という人の元へ行く



マネージャー?ってなに?

なんか芸能人なのかな?



あれだけ綺麗な顔していたら納得だ


ここは東京だ

そういう人たちが溢れかえっている街


私が知らない芸能人が何かの打ち上げで貸し切りにしてたそうだ




「あなた、なんかごめんね?」


『いや、こっちこそごめん…』



二人で戸惑っていると、マネージャーみたいな人が近づいてきた



「ご迷惑おかけしてすみません。貸し切りってしてますけど、よかったら飲んでいってください。ご馳走します」

30代に見える韓国人男性が笑顔で話しかけてきた
ここまで言われると帰る方が気まずい



『え…じゃあ…一杯だけ…』

私はそういうとペコペコ頭を下げた



「よかった!ありがとうございます!」

ソンジュンはマネージャーらしき人にお礼を言う



『え?ほんとにいいの??』

私は小声でソンジュンに聞く



「こんなこと初めてだけど、いいみたい!ラッキーだね!」

ソンジュンは嬉しそうに私の背中を押して店の中に入る



パッと店内を見る

15.6人ぐらいの人たちがいて
お酒や軽食をカウンターの上にちらばっていた


それぞれカウンターチェアに座って
話しながら飲んだりダーツをしたり楽しんでる



…気まずい!
そりゃ気まずいよね!

だって誰も知らないのに、私なんでここにいるんだ?


今さら、自分の状況が分かって
心の中で叫びながら端っこのカウンターに座る


目の前にソンジュンが立って、いつものようにビールを出してきた



「ごめんね。俺は嬉しいけどあなたは気まずいんじゃない?」

ソンジュンは苦笑いする



『そ、そんなことないよw』

私は苦笑いで言いながらビールを頂く


まぁビールおごってくれるならいいか


ビールを飲みながら周りを見渡すと
みんなが私の存在に気づいて視線を送ってくる


誰だよってなってるよね
しかも見た感じみんな韓国人だし


その中で先程帰るのを止めた美少年と目が合った
するとニコッと笑いかけてくる


か、、可愛い


初めて男性に対して照れてしまった私は
目を逸らしてソンジュンに向き合う


『なんかの打ち上げ?』


「そうそう…ってあれ?気づいてない?」

ソンジュンはびっくりしたように笑う

『え?どういう、、、』




「ソンジュンヒョンと友達なんですか?」


後ろから声をする
振り向くとあの美少年が目の前にいた



あれ?
なんかこの顔見覚えがある



『あ、そうなんです。何回かここに来たことがあって』


あなたは答える


この子…もしかして…


「俺はソンジュンヒョンと幼なじみなんだ。お名前は?」


美少年は手を差し出す



その手を見て、またハッとする
何かで見たことがあるタトゥーに



『あなたです、、、』


私はその手を握って握手した



「俺はチョン・ジョングク。初めまして」




目の前の少年はあの『チョン・ジョングク』だった

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