俺のクラスには、1つの空席がある。
窓側の一番後ろ。春には、校庭の桜を見ることが出来たり、授業中寝てもバレにくい“特等席”だ。
そして、俺の隣の席である。
俺らが卒業するまであと1ヶ月弱。結局、この特等席に座る奴はいなかった。一時期、転校生が来るのでは?などと噂がたったが、卒業まで1ヶ月弱ともなれば、そんな噂は消えていた。
こうして、俺の平穏な高校生活は終わりを告げる。…はずだった。
(…は?)
聞き間違いではなければ、今、“転校生”と担任は告げた。
衝撃な発言に、混乱しているのは俺だけではない。
クラスのお調子者が転校生がきた時の決まり文句を言っている。…いや、小学生かよ。
空席ではない方の隣の席ある幼馴染の大河が話しかける。
でも、大河の言う通りかもしれない。
妹が前に見ていた少女漫画が原作のドラマでは、ここで引っ越した主人公が学年1イケメンと呼ばれる奴と恋に落ちる、みたいな展開だったはずだ。ただ、“卒業まであと1ヶ月弱”という条件を除けば、という話だ。
(こんな時期に転校なんて、珍しいにも程がありすぎるだろ。)
クラス全員の視線は、転校生が入ってくるであろう、前の扉に集中していた。
ガラッ、といつも通りの音を立て、扉が開く。
入ってきたのは、パステルカラーのリュックを背負い、長い茶色がかった黒髪をポニーテールにした、少し小柄の少女だった。
こうして、俺の平穏だったはずの高校生活はこの転校生・加治 結によって波乱の青春へと変わった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。