(将来についてか__。)
悩みながら、俺の足は自然とあの場所へ向かっていた。
俺の父が外科部長を務める、大学病院だ。
(俺が、医学部に進むことを決めたのも父さんが医者だったから__。)
小さい頃から、父に弁当を届ける母さんについて、この大学病院にきていた。
そして、いつしか、医者である父を尊敬していた。
外科がある6階に向かう。
中井さんは、この病院にくるといつも遊んでくれていた顔馴染みの看護師さんだ。
小走りで行く中井さんにお辞儀をする。
(父さんの同じ医者になって、たくさんの患者さんを救う、か。)
もちろん、その夢を忘れたわけでも捨てた訳でもない。でも、どこかその夢に少し違和感を感じているのは確かだ。
周りを見渡すと、看護師さんや医者、患者さんが思い思いに行動している。
きっと、父さんも今頃、患者さんを救うために奮闘しているのだろう。
(帰るか_______。)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!