第96話

おかえり
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2022/04/04 10:37
『お、終わったぁぁ…』

「お疲れ様です」




週末。

なんとかギリギリ作詞を全て終わらせた。

紀章さん、帰ってくるかなぁ…





「作詞が終わりましたので、しばらくお仕事はお休みです」

『やった』

「これからは作曲がありますが、3週間後になりますので声優のお仕事も少し入れられては?」

『うーん…今はちょっとね』

「分かりました。では帰りましょうか。送りますよ」

『サンキュ』




スタジオを出て、代々木ちゃんとタピオカでも飲むかなんて話をして

奢るよと言ったら断固拒否されて…

なぜ…?

代々木ちゃんからもなんかおのゆー感が…




『あ、ちょっとごめん』

「はーい」




スマホが鳴って、表記はジョイさん。




『はーいもしもし?』

〈お疲れ様ー〉

『お疲れ様』

〈あなたちゃん、きーやん今日帰るよ〉

『あらそう?もうちょっと浮気してても良かったのに』

〈そんなこと言わないのー!〉

『ふふっ』

〈きーやん結構寂しがってたんだからね?〉

『ふーん…』

〈毎日お酒呑んでさ。あなたちゃんの名前ずっと呼んでた。まるで口癖みたいに〉

『…』

〈ホントは無理矢理そっちに返すんだけどね。いい加減帰りなさい!って〉

『そうなの?笑』

〈そうよ?笑。あなたちゃんへの申し訳なさがまだ残ってるみたいだから、帰ってきたら抱き締めてあげて!〉

『…わかった。』

〈ついでっていうか、本題だけど……一回でいいから、抱かせてあげて〉

『…』

〈コレに関しては強調できないし、あなたちゃんの身体を大事にすべき事でもあるけど…〉

『…ちょっと考えてみる』

〈ありがとう。ホント、死にかけの狼みたいだったからね?〉

『そんなに?』

〈うん。あなたちゃんが週末までに作詞終わらせるって電話で聞いてから、ずっとGRANRODEOの作詞やってたんだよ〉

『…』

〈週末に終わらせるって言ってたんだって、だから俺も頑張るんだって。意気込んでた〉

『…』

〈あなたちゃんは超有名人で、あの東京事変の人なんだからスケジュールもあるし変更もあるかもよ?って言ったらね〉

『…うん』

〈「あなたちゃんは俺のこと大好きだから。」って。〉

『…』

〈きっと俺も信じてるって意味だろうけど。どう?作詞は〉

『…ふふっ。もちろん、全部終わらせたよ。これからはだいぶ休暇をもらえるんだ』

〈流石だなぁ笑。これで一安心だ〉

『ありがとねジョイさん。今度お礼にお酒持って行くよ』

〈そう?じゃあ期待しとく!〉

『うん!』

「白夜さーん、そろそろ行きますよー?」

『はーい。じゃあねジョイさん』

〈うん!きーやんによろしく!〉

『うん』





「…旦那さん、今日戻ってきますって?」

『多分ね。』

「スーパー行きます?」

『…ううん。』




今日は、何もしない。

紀章さんを待つことだけ考える。











「…はぁ……」




ジョイさんに帰れ!って言われた…

まぁ週末だけど…

ハイスピードで作詞を終わらせて、それなりに出来のいい歌詞が作れた。

だいぶ疲れが溜まってる…

足が重い…

午後6時か。

忙しいあなたちゃんならまだ帰ってきてないか。




「…あれ」




家のドアの鍵が開いてる

まさか




「あなたちゃんっ…」




ドアを開けて靴を脱いでリビングに走って

荷物を投げ捨ててあなたちゃんの姿を探した。




「…っ…」




どこだ…?

風呂か…?




『…っ』

「え…」




背中にあったかくて安心する温もりを感じた。




『…おかえり、紀章さん』

「っ…!」




声に咄嗟に振り返って、後ろを向くと

1週間ぶりに見るあなたちゃんが。




「っ…」

『…今にも泣きそうな顔』




あなたちゃんは腕を広げて




『おいで。』

「…っ」




俺を、抱き締めてくれた。




『お疲れ様。』

「っ…」

『全部終わらせたよ。しばらくお休みももらった』

「……っく…ぅ…」

『ただいま、紀章さん』

「…おか、えり…」

『…ふふっ』




抱き締めて、強く強く抱き締めて

匂いも感触も全部あなたちゃんで

泣けてきて

あなたちゃんは俺の頭を撫でてくれて





「…1人の時間…大事にできた…?」

『うん。仕事納めだったけど、十分だよ』

「そっか…」

『…』




疲れててもう身体は動かないはずなのに

歩くのさえやっとなのに

このまま離したくなくて

むしろ…




「…」

『…』




抱きたい衝動が募りつつある……

あれだ、雄は疲労が溜まると子孫を残したくなる本能があるんだとか…




「……あなたちゃん」

『ん…?』

「ご飯食べた…?」

『まだ』

「お風呂は?」

『まだ。ずっと紀章さん待ってたから』

「…」




やっぱ、食らうしかねぇか




「…っ」

『ん…』




壁に追いやって、噛み付くようにキスをして

逃げられねぇように手を上にくっつけて

ダメだ、本能って怖ぇ…

流石に止めなきゃと思いつつ、身体が全く言うことを聞かない。

服に手を滑り込ませて、お腹を撫でて

帰ってきたばっかで俺の手が冷たくて、あったかい肌を撫でる度にびっくりしてて

抑えられない、食らいたい




「…っ…」

『はぁ…っ…』

「…なんで、抵抗しないの?」

『…ぇ…?』

「…」

『……今日は、いいの』

「…」




なんだそりゃ

まぁいいけどね。

その気になってくれてるってことなんだから、途中でやめたりなんて絶対にしない。




「……ベッドに運ぶ…?」

『はぁ……はぁ……』

「ここでする?」

『……ベッド行きたい…』

「…わかった」




抱きかかえて、ベッドに連れて行って

洗い立てらしいシーツがあなたちゃんを包んで

綺麗…




「…家出した日」

『…』

「電話したでしょ?」

『うん』

「あの後、やっぱこの女からは離れられねぇなって思ったんだよね」

『…』

「大勢の男が虜になる理由がわかる。自分から離れようなんて絶対思えない。例え地べた這いつくばってでも、隣に居たくなる」

『…』

「…あなたちゃんはそういう女だよ」

『…じゃあ紀章さんはすごい人だね』

「え…?」

『そんな私を、虜にさせたんだから…』

「!…」

『…紀章さんに縛られてるわけじゃないの。依存してるわけじゃない。けど、虜にされたの』

「…」

『…責任取れる…?そんな私を虜にした責任』

「…取るよ。」

『…』

「地獄の先でも行ってやる。あなたちゃんのためにもがくのは、もう慣れた」

『…』

「…たださ」

『?…』

「…どんなことがあっても、俺っていう存在だけは忘れないで…」

『…』

「…今回は仕方なかったことだけど、そう言うことじゃなくて……」

『…うん』

「…」

『絶対忘れないよ』

「ありがとう」

『…紀章さん。』

「ん…?」

『抱いて』

「…うん」





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