第103話

誕生日
578
2022/07/10 17:31
「あなたちゃーん」

『ん…』

「ほらほら、ちょっと起きて」



夜中に紀章さんに起こされた。

声のトーン的に悪い夢を見た訳ではなさそう…?



『ん…?』

「…」




目を開けると、そのままノータイムでキス。

何があったのかと不思議に思いながらも、そのキスを応えた。




「…」

『…どうかした…?』

「…誕生日おめでとう。」

『…あれ、今日だっけ…?』

「そうだよ。12月1日」

『何となくもうすぐだろうなとは考えてたけど…』

「0時ぴったりに言おうと思ったけど、気持ち良さそうに寝てたから起こすのやめた」

『そっか。私35になったのかぁ』

「大丈夫。何歳になっても老けないから」

『余計なお世話ですー』

「あはは笑」



誕生日という影響があるからなのか、紀章さんは私に腕を巻き付けて離れない。

そんな薄着で寝るからでしょーが…

今度ルームウェア買ってこなきゃ。




「あなたちゃんもうすぐ仕事復帰でしょ?」

『声優のね』

「そうそう」

『うん。もうすぐだよ』

「だからこうやってゆっくりできるのも今日が最後かなって」

『…そっか』

「がっかりしないの。俺だって寂しいけど、白夜あなたを待ってる人はたくさんいるから」

『…紀章さんは待ってくれる…?』

「っ…」




意味が伝わったのだろうか。

紀章さんは私を1人夜の世界で生きていけるように、いつも助けてくれてる。

まぁ結婚したら2人で闘っていくと決めたのだから、結局1人ではないのだけれど。

あの事件から18年経った今でも、変わったことは少しだけ。

紀章さんという存在はホントに大きくて、変わっていくスピードが早くなった気がする。

けど、どうしても時間はかかってしまう訳で。

めげすに紀章さんは私の隣を歩いてくれる。

居れるものならずーっと、私とくっ付いてくれる。

それは私を、待ってくれてるって事でいいんだよね…?




「俺を何だと思ってんのさ。待ってるよ。」

『…』

「待ってるけど、ゴールはある?」

『…死ぬまでないんじゃないかな』

「じゃあ俺ゴールで待たないよ」

『…?』

「あなたちゃんが頑張ってるなら、俺も頑張るもん。2人で喧嘩するなら、俺ら誰にも負けないと思うんだよね」

『……まぁ、それは自信ある…笑』

「でしょ?だから俺ら2人で1つって考えた方が手っ取り早いんだよ。待たないよ。一緒に闘うから」




この人のすごいところは、人の心を平然と読めること。

私の性格は人に素直に甘えられない事。

紀章さんくらいドが効いたのが丁度いい。

やっぱり私には紀章さんしかいない。




『…』

「…ふふ、眠そうだね」

『…ぅん…眠い…』




紀章さんは私に腕枕をして、布団を肩まで掛けてくれた。

この安心する匂いも感触も大好きだから、私は紀章さんに擦り寄った。




「…よしよし」

『…』

「結婚してから、よく甘えてくれるね」

『…そーかな…』

「良かった良かった」




頭を撫でられると、ほら。

一瞬で安心してそのまま寝落ちする。




「…15年、俺頑張ったから。」

『…』

「一緒になってくれてありがとう。あなた」




なんか言ってる。

そして呼び捨てで呼ばれた気がした。



『……ふふ』

「…かわい」














「おはよ♡」

『…ん…んー!』

「昨日はずいぶん張り切ってたねっ」

『え?』




朝起きるや否やそんなことを言われて、昨日したっけ?と記憶を蘇らせる。

いや全く記憶がない。

気絶して記憶忘れたりとかしたのかな…




『なんで裸…⁉︎』

「なんでって、したからだよ?」




目の前の紀章さんは全裸。

そして私も上は下着以外脱がされている。




『え、え…?』

「………ふっは!笑」

『?』

「嘘だよ笑。ちょっとやってみようと思って服脱いだだけ。」

『何してんのさ…』

「可愛かったからよかった」

『えぇ…』

「今日はね。とあるお店予約してあるから行こっか」

『本当?』

「うん。美味しいところ」

『やった!』

「けどその前に行きたいお店あるから、お昼食べに行こう」

『うんっ』



となると、なるべく早く準備しなきゃ。

どこ行くのかなっ

楽しみ。











「こっちこっち」

『どこ?』




商店街に連れて行かれて早5分ほど。

電車に乗ったりバスに乗ったり、久々のデートで楽しかった。

そこまではいい。

なんで商店街?

なんて考えていたら、とあるラーメン屋さんに連れて行かれた。

紀章さんはガラケーを開けながら「ここだ」と言った。

ここに何が?



「いらっしゃー…あ!来た!」

「お疲れ様ー!」



あれ ⁉︎

勝っつぁんこと勝杏里に、勇がいる!

社長も道子さんも!

小西さんとサトタクも!

6人も何してるの ⁉︎




「お待たせしましたー」

「グッドタイミングですよ。仕込み始めたんで!」

『え、え?』

「あなたちゃんの誕生日を是非お祝いしたいっていう6人が集まってくれたんだよ。杏里君のラーメンも兼ねてね笑」

「あなたちゃんと会うの久々かもしれないです」

「サトタクはそうだろうねぇ」

「小西君は?」

「俺は前にアニメ録ってたんで会ってます!」

『なんか、ありがとうございます?笑』

「あなたちゃんといろいろ話したい部分はあるんだろうね」

「お仕事そろそろ進めるからね」

『よろしくお願いしますね。』

「どう?最近落ち着いた?」

『落ち着いたって…?』

「いろいろあったじゃん。結婚して刺されて家出して」

「あったなぁ笑」

「いやあったなぁっていうような笑い事じゃないですからね ⁉︎」

『…ま、いいんじゃないかな。少しくらい人生にスリルがないと、楽しくないでしょ』

「スリルを求める人生ってのも悪くないねぇ」

『皆が思ってるより私達幸せなんだけどね』

「「「…」」」

『幸せになればなるほど、失うのが怖くなる。もし今世界が壊れたら、殺されたらって考えるとね。』

「…」



紀章さんは無言で私の手をカウンターの下で握った。

こういうぶっきらぼうだけど、優しさがある行動が好き。

私はそのまま、道子さんが持ってきてくれた会長の写真を見つめた。




『…今この幸せの状態のままを、会長に自慢したい。私今幸せなんですよって。女として胸張って生きてますよって』

「…会長は、あなたちゃんのことずっと見てると思うよ。」

「そうだね。なんだかんだ過保護な人だからね。父さんは。」

『…35年生きてきて、こんなにしんみりしちゃったの初めてだなぁ…』

「…んな事どーでもいいって、言うんじゃない?」

『え…?』

「会長なら。会長はすごくお茶らけてて、ぶっきらぼうな人じゃんか。あなたちゃんが自分らしく堂々と女として生きているならそれでいい!って思ってるんじゃないかな?」

『…』

「…うん、あの人ならそう言うわね」

『道子さん…』

「そう心配することじゃないわ。大丈夫よ」

「あなたちゃんは皆が、そして世の中も会長も認めた女だよ。正真正銘の"女"。」

『……ずっと、そう思えるまで頑張ってきた』

「…」

「「「…」」」

『…ずっと、その言葉を待ってた気がする。ありがとう、紀章さん』

「ううん。」

『…ふふ、ホント…最高のプレゼントだよ』

「もっと役の深いプレゼントないの?笑」

『ないっ』

「それがあなたの良いところよ」

「それもそうですけど…」

「ま、それはそれで考えて。はいよ!ラーメン!」

『美味しそー!』

「ホントだ!」

『また腕上げた?笑』

「だいぶね笑」

「ズルイっすよねぇ。杏里さん、あなたちゃんにだけはラーメン作るお店の場所教えてるんですよ?」

「なーんでだよ!」

「いやぁ、教えたら毎回来てくれるからさ笑。味の感想とか聞いてるんだよ」

『むちゃくちゃ細かく言うもんね笑』

「けどサトタク君にも一回教えたことあるよね?」

「ありますねぇ。その時は醤油ラーメン食べました!」

『いいよねぇ』

「どーも笑」




楽しい話をしながら、集会?は終盤へ。




『はぁ……楽しかった!』

「なら良かったよ。勇もサトタクも来てくれてありがとね」

「お祝いしたかったんで!」

「全然大丈夫っす!」

「杏里君と賢太郎君も。そして道子さんも」

『ありがとうございました』

「いいのよ。自分の誕生日くらい良い気分になりなさいよ」

「そうだ。母さん、まだプレゼント渡してないよ」

「あら、そうだったわね。あなた。」

『はい?』

「これ。」




道子さんから渡された紙袋には、綺麗な色のシャンパン。




『わぁ…!』

「これは、私と賢太郎と佐藤と林からよ。この3人、あなたが喜ぶシャンパンを選ぶって必死だったんだから」

「ちょー頑張ったよね…」

「頑張りましたね…」

「絶対美味しいやつだから、味わってね!」

『ありがとう!』

「綺麗だねぇ」




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