第2話

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2018/04/12 07:29
意識が覚醒してきて、まず最初に、自分の家ではないものの、心地よい香りが鼻をくすぐった。
そらる
あ、まふの家か
窓からは日が差して、外からは車や電車の音。上京当時には鬱陶しかったこの音たちも、今では聞き慣れてしまった。
そらる
…着替えよ
上半身を露出した自分の姿を見て、少し恥ずかしくなる。だって昨日は──ダメだ。思い出したら恥ずかしい…。
まふのシャツを一枚着た俺は、一度深呼吸をしてから寝室を出た。
まふまふ
あ、おはようございます。そらるさん
そらる
うん、おはよ
部屋を出てキッチンへ行くと、まふはエプロンをつけて何かを作っていた。
そらる
「ごめん、俺寝てて…」
まふまふ
大丈夫ですよ!そらるさんの寝顔と、僕のシャツ着てるとこ見れましたから
そらる
お前なぁ…。はぁ、洗面所借りる
まふまふ
はーい
蛇口を捻って水をすくい、そのまま顔を洗う。俺はそれを、いつもよりも多くやった。顔の熱が冷めるまで。









そらる
ごめんな、いつも。作ってもらって
まふまふ
今日のそらるさんよく謝りますね
そらる
悪かったな
まふまふ
いえ全然!それに、僕が勝手にやってることですから
まふは柔らかい笑を崩さず、俺に言った。リスナーさんから「天使」と言われる理由が、今はすごくわかる気がする…。
そらる
ご馳走様。美味しかった
まふまふ
ありがとうございます。…あ、食器は片付けなくて大丈夫ですよ
そらる
え?あ、ありがと…
立ち上がった俺の目の前からは、手に取ろうとした食器はまふによって持っていかれた。前々から思ってたけど、まふはいい嫁になるタイプだよな。…いろんな意味で逆だけど。
まふまふ
そうだ、そらるさん!
一人で何をしようかと考えていると、まふが厨房から顔をひょこっと出していた。
まふまふ
新しく作った曲、聞いてくれませんか?
そらる
いいけど、まずは──
まふまふ
やったー!
そらる
…はぁ。お前まず食べ終われ
まふまふ
あ、そうだった
テーブルの上のまふの皿には、まだ食べ物が乗っかっている状態。なぜこんなにも遅いのだろうか…なんて、嫌な予感しかしないから言わない。

俺がため息をついた、そのとき。厨房から大きな音がした。
そらる
……え?

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