起き上がった勢いが有り余って、まふの肩にしがみついてしまった。
奥の更に奥にまで入ってきて、少し声が漏れる。するとまふが、小さく俺の名前を呼んだ。
するとまふは、少し黙り込んだ。それも恥ずかしそうにして。
そしてやっと口を開いたかと思うと、それは俺の予想外の言葉だった。
『ずっとそばにいるし、お前より早く死なないように頑張るからさ』
これだけじゃない。前々から「一緒にいる」やら「まふの前からいなくならない」やら言っていた。
…改めて思い返すと、なんて恥ずかしいことを…アホか。
赤い顔を手で覆い自己嫌悪しているなか、横から小さく声が聞こえた。しかもはっきりと。
夢だろうか。夢なのだろうか。もう死んだのか?あの世とは夢のような場所なのか?
ためしに頬をつねってみる。そしてなぜか、まふの頬もつねった。
今自分はどんな顔をしているのだろう…それを考えると、自分でもわかるくらい顔が熱くなった。
逸らしていた目線を合わせると、目の赤いまふは、さっきみたいな辛そうな顔で俺を見ていた。まっすぐな目で。
そんな顔をして…本当に可愛いやつ。
対面座位だから、背中に腕を回すのは容易いことだった。
あぁ、温かい…。
現実の出来事に、俺の目からは涙が零れてきた。そのせいか、まふは声色からして心配してくれているのだろう。焦るように声をかけてきた。
でも俺は、落ち着いた調子で返事をした。
まふは嬉しそうに俺に言った。声は震えて出ない代わりに、頭を縦に振る。
まふを安心させるために言った言葉が、まふの中ではそんなものになっていたとはね…無自覚だったよ。
俺からは無自覚で成り行きみたいだったし、まふからは''したかった''というだけで、されたわけではない。ならちゃんと、自分の未来の旦那からしっかりとプロポーズを受けたい。
まふは少し顔を赤くして恥ずかしがった後、一度深呼吸をして、口をゆっくりと開いて言った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!