第5話

平成30年、7月21日、深夜。
102
2018/07/25 09:55
???
???
あなたに"救って"もらった、金魚です。
リサ
リサ
…え?

脳が機能停止しそうだ。


(意味がわからない…何言ってるんだこの人)


私は彼に──私が"救った"金魚に、

正直な気持ちを伝えることにした。
リサ
リサ
いや、意味わかんないんだけど。
???
???
…?
リサ
リサ
いや、だからさ。
金魚が人間になれないでしょって話。
絵本じゃないんだから…
私がそう言うと、

彼は困ったような顔をした。
???
???
…じゃあ、金魚になったら信じてくれる?
リサ
リサ
それはもちろん!
???
???
そっか。
…じゃあ、一瞬──1秒だけ、向こうみてて下さい。
言われた通り…いや、それよりも短い間だが

私は向こうと指差された方向を見た。

見てすぐ、後ろを振り向く。


そこには、驚くべき光景があった。

リサ
リサ
え、いない……?!
本当に一瞬だった。


彼が居たところには、

金魚がバタバタと苦しそうに

水のない床を泳いでいた。



再び、向こうを見る。



すぐに視線を戻すと、

彼が同じように立っていた。

???
???
…ね?本当でしょ?
リサ
リサ
ほ、ほんとだ…
???
???
それじゃ、信じてくれたということで。
改めて、よろしくお願いしま…
彼が再びの挨拶を終える前に、

私は口を開いた。
リサ
リサ
あのさ!
???
???
リサ
リサ
君の名前…『みお』とか、どうかな
???
???
名前…?
リサ
リサ
私の家、いっぱい金魚いるから、区別…じゃないけど…その…
私が口ごもっていると、

先に彼が答えを出した。
???
???
ありがとう!
僕、今日から"みお"になる!
リサ
リサ
私が思っていたより、

彼はこの名前を気に入ってくれた。


満面の笑みで、再び話し掛けてくる。
みお
みお
あの、主人はなんて名前なんですか?
リサ
リサ
主人ってそんな……私の名前はリサ。
小泉理沙。
みお
みお
リサ…素敵な名前ですね!
名前を誉められたことなんて

今まで1度もなかったから、

唐突なその言葉に顔が赤くなる。
リサ
リサ
その…敬語、使わなくていいから。
みお
みお
!!
リサ
リサ
…何。
みお
みお
いえ…じゃなかった、ううん!何でもない!
リサ
リサ
~っ!
不器用な私の照れ隠しは、

簡単に相手に見破られてしまったらしい。


くしゃくしゃと笑うその笑顔に、

自然と私まで笑顔になった。





────────────────────




階段から足音が聞こえる。

お母さん…かな。


(どうやって説明しよう…)


考えている間に、リビングの扉が開く。
お母さん
あら、まだ起きてたの?
リサ
リサ
え、あぁ…うん。まぁね。
(みおのこと、バレた…?)
お母さん
そう…はやく寝なさいね?
それだけ言って、

母は2階の自室へと戻っていった。



くるりと後ろを振り向くと、

たっぷり水が入った金魚鉢の中で

笑うようにぷくぷくと泡を吹きながら

みおが私をみていた。

リサ
リサ
器用なやつめ…
いつの間にか日付が変わっていた。


7月21日。


長い夏が始まりそうだ。

プリ小説オーディオドラマ