脳が機能停止しそうだ。
(意味がわからない…何言ってるんだこの人)
私は彼に──私が"救った"金魚に、
正直な気持ちを伝えることにした。
私がそう言うと、
彼は困ったような顔をした。
言われた通り…いや、それよりも短い間だが
私は向こうと指差された方向を見た。
見てすぐ、後ろを振り向く。
そこには、驚くべき光景があった。
本当に一瞬だった。
彼が居たところには、
金魚がバタバタと苦しそうに
水のない床を泳いでいた。
再び、向こうを見る。
すぐに視線を戻すと、
彼が同じように立っていた。
彼が再びの挨拶を終える前に、
私は口を開いた。
私が口ごもっていると、
先に彼が答えを出した。
私が思っていたより、
彼はこの名前を気に入ってくれた。
満面の笑みで、再び話し掛けてくる。
名前を誉められたことなんて
今まで1度もなかったから、
唐突なその言葉に顔が赤くなる。
不器用な私の照れ隠しは、
簡単に相手に見破られてしまったらしい。
くしゃくしゃと笑うその笑顔に、
自然と私まで笑顔になった。
────────────────────
階段から足音が聞こえる。
お母さん…かな。
(どうやって説明しよう…)
考えている間に、リビングの扉が開く。
(みおのこと、バレた…?)
それだけ言って、
母は2階の自室へと戻っていった。
くるりと後ろを振り向くと、
たっぷり水が入った金魚鉢の中で
笑うようにぷくぷくと泡を吹きながら
みおが私をみていた。
いつの間にか日付が変わっていた。
7月21日。
長い夏が始まりそうだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。